マーケターの直感とデータをつなげる「5Sフレームワーク」
「これはいける」という現場の直感が、会議室で「根拠は?データは?」と問われ消えていく――そんな経験を持つマーケターは少なくないだろう。一方で、データを積み上げるだけでは、顧客も組織も動かせないジレンマがある。
この普遍的な課題に真正面から向き合い、AIを「壁打ち相手」として活用しながら直感を戦略へと翻訳する思考法を体系化したのが、積水ハウス イノコムでCROを務める日ノ澤恵莉氏だ。

テーマパーク業界でのマーケティング・商品企画、通信業界や損害保険業界での顧客分析・データマーケティングの経験を経て、現職でリサーチとデータを統合した事業成長エンジンの設計に取り組む日ノ澤氏。そのキャリアを一言で表すなら「感性とデータをつないできた道のり」と言える。テーマパークという、ゲストの体験価値を大切にする感性重視の現場と、数字やデータをもとに議論を積み上げる現場。この両極端な経験の中で体系化したのが「5Sフレームワーク」だ。
5Sフレームワークは、AIを壁打ち相手として思考を広げ、良い直感を「勝てる戦略仮説」へと磨いていく5つのステップで構成されている。今回のセッションでは、5つのうちSeeとSelectのステップが詳しく解説された。

See:顧客の本音を観察するときに有効な、UGC×AI活用法
1つ目のS「See:観察する」は、現場の直感や仮説が、顧客の現実とズレていないかを観察し、「検証すべき問い」に変換するステップだ。ここで重要なのは、企業に届いている声だけを顧客理解のすべてと見なさないこと。顧客理解というとアンケートやインタビューが思い浮かぶが、日ノ澤氏はその根本的な限界を指摘する。
そもそも、アンケートに答えてくれるのは、自分の課題を言語化して語ってくれるごく一部の「親切な顧客」だ。一方で実際のビジネスを損なっているのは、比較ページで静かに去っていく層、不満を抱えながらも何も言わずに解約する「サイレント・チャーン」と呼ばれる顧客である。
「アンケートだけを見ていると、『満足している人の声』が代表値になってしまう危険があります。顧客の無言が指し示す真の課題を『検証すべき問い』に変換することが戦略策定のスタートであり、Seeのステップのゴールです」(日ノ澤氏)
ここで注目するのがUGC(ユーザー生成コンテンツ)だ。SNS・ブログ・掲示板に蓄積された顧客の生の声には、アンケートでは引き出せない本音が潜んでいる。
しかし、UGCは活用のハードルが高い。日ノ澤氏自身、オリエンタルランド時代にあるキャラクターの商品開発を担当していたとき、チームでSNSパトロール担当を決め、定期共有会を重ねながら収集・分析していたが「網羅性の担保」という壁をなかなか超えられなかった。また、ソーシャルリスニングツールなどを導入してUGC収集を自動化しても、分析や解釈に一定のリソースがかかってしまう。

「以前のUGC分析は『収集の大変さ』と『解釈の難しさ』が課題でした。ですが、今はAIを使うことで、以前は大きな工数がかかっていた収集・整理の工程を、かなり現実的に扱えるようになっています」(日ノ澤氏)
日ノ澤氏は文系出身でコードを書いた経験もなかったが、Claudeと対話しながらUGCの自動収集・分析ツールを構築。ニュース・SNS・アラートからデータを蓄積し、AIで分類・要約・感情分析・競合比較を行い、ダッシュボードで可視化する一連の流れをノーコード中心で実現したそうだ。
