AIとの壁打ちでCEPを設計する3ステップ
Selectでは、次の3つのステップで今回勝ちに行くCEPを選び、ブランドとの結びつきを設計する。引き続き、フィットネスジムを例に解説していく。
STEP1:CEP候補を広げる
まず、AIに自社の強み(駅近・複数店舗・初期サポートが手厚いなど)をインプットした上で、思い出される場面候補を洗い出してもらう。夏前に体を絞りたい、健康診断が気になった、在宅勤務で運動不足、ストレスを解消したい、習慣を変えたい、体力低下を感じた――このように、美容・健康・生活改善など様々な文脈の場面が出てくる。ここでは、より多くの場面候補を出すことを目指してよい。

STEP2:勝ちに行く場面を選ぶ
次に洗い出した場面候補から、今回の施策で勝ちに行く場面を選ぶ。選ぶ際の判断軸は、「1.その場面が顧客の日常で起こりやすいか(場面の広さ)」「2.想起した場面と実際の利用が文脈的につながっているか」「3.自社の強みと自然につながっているか」の3つ。このジムの例では「忙しいけど、運動しなくてはと思ったとき」を選んだ。

STEP3:選択したCEPとブランドを深く結びつける
CEPは選んで終わりではない。「こういうときは、このブランド」という深い結びつきを作ることがゴールだ。強いブランドほど、多くの場面で思い出されながら、同時に「この場面ならこのブランド」と強く結びつく場面も持っている。
たとえば、「忙しい社会人でも通えて、続けやすいジム」と言われて、読者も想起するジムがあるはずだ。そのジムは「隙間時間を有効活用したいとき」「手軽に健康管理をしたいとき」など、違う角度でもブランドイメージを形成できているのではないだろうか。広く想起され、深く生活場面と結びついている――これが強いブランドの特長だ。

Solidify & Settle:一連のステップを踏み、最後は人間が決断する
Solidifyでは、Selectで決めた「この場面ならこのブランド」という想起の核を、広告・Webサイト・店舗設計などの接点に落とし込む。ここでAIは、接点ごとの役割や表現のズレを確認する壁打ち相手になる。接点ごとに伝え方は変えてよいが、顧客の中に残るブランド像はそろえることが重要だ。

忙しい社会人向けジムであれば、広告・店舗設計・Webサイトそれぞれで異なるメッセージを使いながら、思い出してほしい瞬間に届ける設計をする。朝の始業前には「仕事の前に一運動していきませんか」、昼休みには「10分運動してから午後を始めませんか」、退勤後には「帰宅前に10分だけ運動して帰りませんか」といった具合だ。物理的な接点としては、駅からの近さ・アプリでの予約しやすさ・初回の不安がない設計(初回無料体験など)が必要となる。
そして最後のSettleでは、AIが広げたCEP候補・接点案・改善案をそのまま戦略にするのではなく、顧客・市場・自社・接点が一本の筋でつながっているかを確認する。そのうえで、顧客感情、現場の実行可能性、事業制約、市場成立性を踏まえ、どの条件で前に進めるか、何が見えたら見直すかを人間が判断する。

5Sフレームワークにおいて、AIは正解を出す相手ではない。思考を広げ、問いを整え、見落としに気づくための壁打ち相手である。だからこそ重要になるのは、AIが出した材料を、顧客理解に基づく事業判断へどうつなげるかだ。
顧客理解とは、アンケートやインタビューの実施そのものではなく、顧客がなぜ選び、迷い、離れ、競合を選ぶのかを、戦略や投資、商品開発、KPIに使える形で捉えることだ。売上や利益は結果であり、その上流には顧客の認知、想起、比較、選択、購入がある。だからこそ顧客理解は、販促の前工程ではなく、企業の意思決定を支える基盤として扱う必要がある。
セッションを締めくくる言葉として、日ノ澤氏はこう語った。
「マーケティングの現場に唯一の正解はありません。だからこそ思考法を整え、繰り返していくことで戦略思考が磨かれていきます。この1年でAIが普及したことで、誰もが直感を戦略に変えるチャンスを得られたのではと私は考えています。AIと共に、まずはできるところから。きらりと光るインサイトを勝てる戦略にしていきましょう」(日ノ澤氏)
感性とデータのどちらかではなく、AIを介して両者をつなぐ思考法――5Sフレームワークの詳細はMarkeZineの連載で解説している。
