生成AIの急速な普及による生活者の変容
現代のマーケティングを取り巻く環境は、生成AIをはじめとしたテクノロジーの進化によって劇的な転換期を迎えている。生活者のライフスタイルや情報接触のあり方が様変わりする中で、ブランドとの出会いから関心・理解・比較検討、そして購入の意思決定に至るカスタマージャーニーもまた、従来の枠組みを越えて変化しつつある。
AI時代のブランド戦略をテーマに掲げた本セッションでは、JTBと日本ケンタッキー・フライド・チキン(以下、日本KFC)という、顧客接点の時間軸や商品単価が大きく異なるパネリスト2社が登壇。それぞれの取り組みから、業界の枠を超えた先にある“AI時代のブランドの本質”に迫った。
セッションの冒頭、モデレーターを務める翔泳社 メディア編集部門 ビジネス編集統括の安成から、2026年5月に発表されたばかりの東京工科大学による調査データが共有された。同調査では、大学の新入生の9割以上が日常的にChatGPTをはじめとする生成AIツールを利用している実態が明らかにされ、現在の生活者における生成AIの浸透具合がうかがえる。
「手動検索」から「AI推薦」の時代へ──JTBが定義するAI時代のブランド価値
まずは1つ目の質問として、「昨今の変化をどう受け止め、ブランドの存在意義をどう考えているか」という問いが両者に投げかけられた。
JTBでチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を務める風口悦子氏は、AI時代における最大の環境変化として、情報収集のプロセスが従来の「検索」から「AIによる推薦(レコメンデーション)」へと移行している点を挙げた。従来は「検索エンジンでいかに見つけられ、認知を獲得するか」が重視され、そのためのSEO対策や広告運用に投資がなされてきた。
しかし、生活者がAIと日常的に対話するようになると、AI側があらかじめ膨大な情報を比較・評価した上で、最適な選択肢を絞り込んで生活者に提案するようになる。つまり、企業は単に露出を増やすだけでなく、AIに「推薦されるブランド」にならなければ、生活者の選択肢にすら入れない時代が到来しているのだ。
風口氏は、この状況下でブランドが持つべきコアは「信頼」だと提示。これまでのブランディングは、顧客に「好かれる」という情緒的なアプローチが中心となる傾向があった。それに加えて今後は、企業姿勢そのものが信頼に足るものであるか、そしてその信頼がAIによって客観的に検証可能かどうかが問われる。オウンドメディアの発信、外部メディアによる情報、そして営業や店舗といったあらゆる顧客接点において、ブランド体験のギャップを無くすことが不可欠となる。
「ブランドはもはやマーケティング部門だけの資産ではなく、経営の信頼基盤そのものになっていきます。一貫した信頼を生み出す“経営のマネジメントシステムとしてのブランド”が、AI時代におけるブランドの位置付けになると考えています」(風口氏)
実際にJTBでは、コロナ禍の危機をきっかけに、ブランドの存在意義を再び問い直したと風口氏。価値の再定義により、ミッション・ビジョン・バリューやパーパス、ブランドプロミスを包含した独自の経営理念「The JTB Way」を構築した。これを具現化すべく、あらゆるステークホルダーとのコミュニケーションを実行していく活動を展開しているという。
