値引きに頼らない、日本KFCの価値提案
日本KFCがデジタル基盤を整えたことで実現した成果の1つが、「過度な値引きに依存しないオファリング(売価設定や商品提案)」への転換だ。従来のファストフードマーケティングでは、一律の割引クーポンを大量に配布して来店を促す手法が一般的だった。しかし全員に同じ提案を行うことは、必ずしも顧客のその瞬間のニーズに合致するとは限らず、ブランド価値の毀損にもつながりかねないと平田氏は指摘した。
同社は1年間かけて、顧客一人ひとりの行動をトリガーにした自動コミュニケーションシナリオを従来の約2.8倍にまで拡充した。何百ものシナリオをAIによって自動で走らせることで、家族構成や趣味嗜好、利用シーンに応じた最適な提案が可能となったのだ。
たとえば、家族での食事に悩む顧客に対してボリュームが最適なファミリーパックを案内することで、顧客は値引きがなくともその利便性とおいしさに適切な対価を支払うようになる。結果として、顧客のアプリからの離脱率は大幅に低下し、客単価と来店頻度の双方を向上させることに成功した。
さらに平田氏は、AIの予測精度向上を単なる「未来の予測」に留めず、「理想の未来を自らつくり出すための道具」として活用していると語る。顧客が次にいつ来店するかをデータから予測し、もしそのタイミングで来店がなければ、適切なメッセージやインセンティブを届けて再来店を促す。「予測を裏付けるように、顧客へ能動的に働きかけるアプローチ」と平田氏は表現した。
AI時代のマーケターが持つべき指針とは
セッションの締めくくりとして、両氏からこれからの時代にマーケターが担うべき役割と、持っておくべきマインドセットが示された。
JTBの風口氏は、ブランディング・マーケティング・広報の3領域を横断する組織を統括する立場から、マーケターの役割は単に「モノを売る仕組みづくり」や「広告宣伝」に留まらないと指摘。AIが提示するブランドの認知と、オンライン・オフラインを通した顧客の実体験との間にギャップが生じないよう、組織の壁を越えて全体をコントロールし信頼を構築することこそがマーケターの使命だとした。
そのためには、コミュニケーションやコンテンツ、社員の行動の指針を明確化し、市場や顧客の声を起点に変革を牽引するリーダーシップがAI時代のマーケターに求められるスキルとなる。
日本KFCの平田氏は、創業者のカーネル・サンダース氏が遺した「DONE THE RIGHT WAY(正しい道を正しくやりなさい)」という言葉を引用し、強力なテクノロジーが活用できる時代だからこそこの哲学の重要性が増していると述べた。
安易な道に頼ることなくAIやデータを活用してどのような未来をつくりたいのか、自社が顧客や社会に対して提供すべき「正しい価値」とは何か、そしてブランドの信頼を高めるために何が正しいアプローチなのか。AI時代のマーケターには、これらの問いに常に向き合う姿勢が不可欠だ。
両者の話を受け、モデレーターの安成は「マーケティングがより経営の中核へと近づく現代において、AIはその変革を強力に後押しする存在」とし、AI時代以前から言われてきた「自社の顧客に対して何をするのが正しいのか」「ブランドの信頼を高めるためにどうするのが正しいのか」という問いに向き合う重要性は今後も増していくと述べ、セッションを締めくくった。
