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MarkeZine Day 2026 Online

エージェンティックコマースはどう顧客体験を変えるか?先行事例に学ぶ「Authenticity」の実装

 「エージェンティックコマース」。AIエージェントが消費者の購買意思決定に介在し、推薦から購入までを支援する新たな買い物の形だ。言葉としては広まりつつあるが、実際のところ海外の小売やブランドの現場で何が起きているのか。2026年5月に開催した「MarkeZine Day 2026 Online」には、顧客時間の奥谷 孝司氏が登壇。AI時代に選ばれ続けるために、小売・ブランドが備えるべき「本質」について語った。

エージェンティックコマースは顧客体験をどう変えているのか

 何かを買おうか迷ったとき、AIに聞いてみる。そんな行動が日常になりつつある。では、その先で何が起きるのか。

 「チャネルが変わったのではなく、お客様の購買意思決定の仕方そのものが、かなり変わってきました。AIが提示したものからお客様が決める。ここで推薦されるということが、ブランドにとって非常に大事になります」

 そう語るのは、株式会社顧客時間の奥谷孝司氏だ。無印良品で「MUJI passport」をプロデュースし、オイシックス・ラ・大地でCOCOを務めた経験を持つ。

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株式会社顧客時間 共同CEO 代表取締役/オイシックス・ラ・大地株式会社 COCO(Chief Omni-Channel Officer)/株式会社Super Normal 代表取締役 奥谷 孝司氏

 NRFやShoptalk 2026など世界最大級のリテールカンファレンスに毎年足を運び、海外の最前線を観察し続けている同氏によると、この変化を前提にした顧客体験が既に立ち上がり始めているという。まず、象徴的な3つの事例から見ていこう。

Sephora:接客をAIに組み込んだ

 コスメ販売で世界トップクラスのSephora(セフォラ)は、OpenAIと組み、ChatGPT上に自社のビューティアドバイザーの知見をAIとして組み込んだ。「私に合うオイリースキン向けのファンデーションは?」と問えば、Sephoraの文脈で答えが返ってくる。

 1月のNRFではGoogleがUCP(Universal Commerce Protocol)で「商品をAIに持ち込んだ」が、奥谷氏によれば、Sephora×OpenAIが持ち込んだのは商品ではなく「接客」だ。対話するAIの“知能”にビューティアドバイザーの知見が入ることで、顧客の悩みに寄り添う接客そのものがデジタルに実装された。

The Home Depot:顧客の「プロジェクト」を一緒に組み立てる

 2つ目の事例は、ホームセンターのThe Home Depotだ。自社AI「マジックエプロン」を活用し、たとえば「16×16フィートのデッキをおしゃれに作りたい」という曖昧な要望に対して、複数の提案を見せながら「ファイヤーピットは必要ですか?」と次の文脈を掘り下げていく。

 「お客様が自分でやりたくてもできなかった部分を、AIが助けることで買い物を楽しくしました。ただ単にベニヤ板30枚を売るだけではなく、その板を使ってプロが何をやるのかまで把握できるようにしたのです」(奥谷氏)

 BtoBの顧客に対しても、過去の配送データから「この道は大型トラックが通れない」「ゲートコードが必要」といった情報をAIが学習し、プロジェクト単位の発注管理を支援する。商品を売る場ではなく、顧客の課題を一緒に解決する場になっている。

Wayfair:「圧倒感」を解消するAI

 3つ目は、家具・インテリアEC最大手のWayfairだ。多くの顧客は、プロ級のインテリアデザインを望むが、実際には難しい。

 そこで、Wayfairが提供する「Wayfairスタイリスト」では「ボヘミアン風の寝室を見せて」と問えば複数のスタイルプランが生成され、自室の写真をアップロードすればARで確認できるようにした。しかも、2,000万SKUの欠損データや寸法の誤りをAIで自動補完している。

 その結果、2024年にシカゴでオープンした初の実店舗では、NPS(顧客推奨度)+70%、ブランド新規顧客+50%という成果が出ているという。

 奥谷氏自身もこの店を訪れたが、「売る店ではない」と言い切る。マットレスは試し放題、蛇口は実際に水が出る状態で確認でき、カーテンは実際のライトで遮光度までわかる。

 「体験できる場を設けることは、一見、非常に効率が悪いと思われがちですが、これをやりながらデジタルでお客様のニーズをつかんでいければ、ビジネスはうまくいくでしょう」(奥谷氏)

 3社に共通するのは、AIを「自動化のツール」ではなく「顧客の課題を可視化し、解決を助ける存在」として使っていることだ。ではAIを導入すれば、どの企業でも同じ成果が出るのだろうか。

AIを入れても顧客体験が変わらない企業もある

 答えはノーだ。奥谷氏は、AIを導入しても顧客体験が変わっていない企業の存在にも目を向ける。その代表例がMacy'sとスターバックスだ。

Macy's:店舗以上に人を減らした結果

 百貨店Macy'sは2024年末にAIアシスタント「Ask Macy's」を導入し、「検索ではない、キュレーションされた発見だ」と打ち出した。しかし、売り場はただ大量陳列されている状態で、同社幹部自身が「すべて完成していると言えば嘘になる」と認めている。

 問題は売り場の表面にとどまらない。Macy'sは2014年から2024年にかけて、店舗数を約870から約720へ約17%減らす一方、従業員数は約17万人から約9万人へと約47%削減した。店舗の削減率を上回るペースで人を減らした結果、現場のオペレーションが崩壊。接客から生まれるコンテクスト情報が失われ、店頭は割引中心の販売に陥った。EC(売上の約25%)もクーポンや割引が軸で、コンテクスト情報が弱い。

 「お客様の課題・文脈には寄り添えていない。これは本当に、今の日本の小売業にとっても“明日は我が身”じゃないかと思います」(奥谷氏)

スターバックス:便利さがブランド価値を空洞化させた

 もう1つの例が、スターバックスだ。モバイルオーダーの利便性を徹底した結果、店舗はピックアップの受け取り場になった。「サードプレイス」という本来のブランド価値が薄れ、「このコーヒーショップでなければならない理由」が見えにくくなっている。

 Macy'sは「文脈を作る人」を削ぎ落とした。スターバックスは「ブランドの文脈」を利便性で上書きしてしまった。どちらも、テクノロジーやデジタルの活用そのものを進めていたが、前章で見た3社との差はどこにあるのか。奥谷氏の議論は、ここからその本質に迫っていく。

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両者を分けるのは「Authenticity(本物であること)」だった

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この記事の著者

竹上 久恵(編集部)(タケガミ ヒサエ)

早稲田大学文化構想学部を卒業後、シニア女性向けに出版・通信販売を行う事業会社に入社。雑誌とWebコンテンツの企画と編集を経験。2024年翔泳社に入社し、MarkeZine編集部に所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2026/07/01 08:30 https://markezine.jp/article/detail/50764

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