伝統的企業の営業・マーケティングにおけるAI実装の現在地
徳田(NTTドコモビジネス):企業のデータ活用による営業改革などの伴走支援をしており、Webメディア「SalesZine」においては、企業のデータ活用実態を紐解く連載企画のインタビュアーを務めています。
本日のテーマは「大企業AI実装の壁」です。大企業や伝統的組織でAI活用を推進する中で、悩みや難しさに直面している方も多いのではないでしょうか。
このセッションでは、そんな壁の乗り越え方について2社の取り組みを深掘りしていきたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。
橋口(ふくおかフィナンシャルグループ):1999年に旧十八銀行(現在の十八親和銀行)に入行しました。営業店や本部でのローン企画、営業戦略統括室などを経て、現在はふくおかフィナンシャルグループに出向し、営業現場の知見を活かしながらAI活用を推進しています。
小林(ダイキン工業):私は空調機器の販売後、アフターメンテナンスなどに携わるサービス部門におります。普段はAIだけではなく、自部門の事業戦略に関するさまざまな取り組みを行っています。
徳田:最初のトピックとして、2社でどのようにAIを実装しているのか、その現状をお聞かせください。
橋口:AI導入当初は「AIツールを導入して、成果を出し、利用率を上げる」というアプローチを試みました。しかし、営業プロセスにおいてそれだけでは経営が求める成果水準には達せず、壁にぶつかりました。
そこで改めて、「AIが行う部分」と「人が行う部分」の役割を整理しました。人が最も注力すべきなのは、お客様と対面し、お客様の意思や今後の展望を紐解いていくことです。その質と量を上げるために「面談の前後の作業をAIにサポートさせる」という方針をとりました。
具体的には3段階の活用をしています。1つ目は事前準備のための「AIレポート」の生成、2つ目が面談の質・量の改善、そして3つ目が面談後の「音声認識AI」による記録整理です。

橋口:営業は、過去数年分の交渉履歴やお客様の財務情報、直近の業界動向などを頭に入れた上で面談に臨むのですが、これには多大な労力がかかります。AIレポートはこれらの情報をまとめて分析して営業担当者に提示してくれるのです。

橋口:ただ、AIが提示するのはあくまでレポートであって、商談の「答え」ではありません。最終的な判断はお客様と向き合う担当者が行います。調べる時間をお客様に向き合う時間へと変えていくのがAIの役割です。
そのために、交渉履歴の記録にもAIを活用しています。それが音声認識AIの活用です。面談の内容をAIが文字起こしし、整理して営業記録に落とし込みます。
この音声認識AIによって、業務効率化が進み、営業時間が創出されるのはもちろん、導入後に意外なメリットにも気づきました。それは、今まで担当者が面談記録に書かずにスルーしていた些細な情報も、蓄積されていくということです。たとえば、社長の今後の展望や個人のお客様のライフイベントなどは担当者だけが把握していることが多かった。こうした情報を標準化してストックしていく仕組みが整い、営業基盤の強化につながっています。
「自分のやり方」を持っている人からの反発は?
徳田:AIレポートは非常に役に立ちそうですね。具体的にどのような情報が出てくるのでしょうか? また、自分のやり方を持っているような方からの反発はありませんか。
橋口:これまで自社がどのような提案をしてきたかという交渉履歴、たとえばお断りされた経緯なども含めて提示されます。文脈を理解した上で話ができるため、利用している営業にも非常に好評です。
一方で、自分のやり方に自信のあるベテラン担当者の中には、見向きもしてくださらない方がいるのも事実です。しかし、そういった方々の頭の中にこそ、非常に有益な情報が入っています。その情報をアウトプットしてもらうために、音声認識AIが役立っているというところですね。
