「その他大勢」から抜け出せるか──パートナービジネスが難しい理由
東証プライム上場のメーカー系商社にて15年間、PMMとして商品企画、チャネル設計、プロモーションなどパートナービジネスを含むBtoBマーケティング全般に従事。パートナーセールス部⾨でMVP受賞、⼤型アライアンスで全社アワード受賞の実績。才流では、IT/SaaS、製造業、海外サービスの⽇本での販路構築など、30事業以上の成⻑に携わっている。著書に『パートナービジネス戦略 基本と実践』(⽇本実業出版社)。
冒頭、セミナーを主催する才流のシニアコンサルタント・桂川誠氏は、パートナービジネスにおける「現実の厳しさ」をデータで示した。
才流が実施した「代理店ビジネスの実態調査 2023」によると、代理店の営業担当者の80%以上が、競合する複数の製品・サービスを同一カテゴリー内で取り扱っているのが実態だ。その内訳は「2〜5個」が44.0%で最多を占め、さらには「6個以上」抱えているセールスも25.5%と、約4人に1人の割合にのぼる。
多忙を極める代理店の営業担当者が、顧客の前で具体的に提案できる商材はせいぜい1〜2つ。自社製品がその選択肢に入っていなければ、事態は深刻だ。
「ベンダーの商材が、代理店の営業担当者の選択肢にすら入っておらず、事実上『忘れ去られている』という状態は、企業にとって非常に恐ろしいことです。この“ワンオブゼム(One of them)”から抜け出して、真っ先に提案される“オンリーワン(Only one)”のポジションをいかに勝ち取るか。ここが今日のセミナーのポイントになります」(桂川氏)
桂川氏は、この埋没の危機を脱し、パートナービジネスを確実に立ち上げるためには「登る順番」を間違えてはならないと指摘する。
才流が提唱する5つのステップは、新商材をパートナーに展開する場面でも、新市場でチャネルを構築する場面でも共通して踏むべき順番だ。立ち上げを成功に導く最大の鍵は、直販で磨いた「売れる型」と、「PPF(プロダクト・パートナー・フィット)」を土台とすることにある。PPFとは、自社の商材とパートナーのビジネスモデルが噛み合い、パートナーが「この商材を担ぐ意味がある」と納得できる状態を指す。
HQのアライアンス戦略が優れていたのは、この2段を飛ばさずに登り、パートナー社内に最初の成功者を生み出したうえで、その成功パターンを二人目、三人目へと広げた点にある。HQがいかにして大塚商会と日本生命という2つの巨大チャネルを動かしたのか、次章からその具体的な実践プロセスに迫る。
急成長スタートアップ「HQ」が仕掛ける、福利厚生市場のアライアンス戦略
2023年に参画し、新規プロダクト⽴ち上げ、業務提携、エンタープライズセールス、パートナーセールス⽴ち上げなどを担当。現在はアライアンスを管掌。前職はSmartDriveにて執⾏役員CSOとして事業拡⼤‧東証上場に貢献。それ以前はMarketo(現Adobe)⽇本法⼈⽴ち上げに⼀⼈⽬営業として参画した後、営業責任者として⽇本市場開拓に貢献。
桂川氏の紹介を受け、HQの執行役員・稲垣亮太氏が登壇した。同社は創業5年目ながら、累計30億円を調達し時価総額は100億円を突破。福利厚生市場に新風を吹き込み、日本生命や大塚商会、NTTデータ、オムロン等を販路に迎える注目のスタートアップだ。
2024年にパートナービジネスへ舵を切った背景には、福利厚生業界の構造的課題と、同社のマルチプロダクト戦略があった。
従来の福利厚生は、全従業員に同じメニューを一律に提供する形が中心だった。従業員一人ひとりの事情に合うとは限らないため利用率は伸びず、投じた費用が使われないまま終わる。働き方が多様化するなかで、投資対効果を高めたいという企業のニーズは強まっていた。こうした課題に対し同社は、企業が付与したポイント枠内で社員が好きなメニューを選べる「カフェテリアプラン」や、昨今法令改正などを背景に注目を集める「カード型食事補助」をはじめ、従業員体験(EX)を高める多彩なプロダクトを統合プラットフォームとして展開している。
「10年で30プロダクト」というコンパウンド戦略を掲げる同社では、プロダクトが増えるたびに提携先との最適な協業の座組みが求められ続ける。稲垣氏は「日々激しい変化の渦中にあるが、それこそがパートナービジネスの難しさであり醍醐味だ」と語る。
現在、国内の福利厚生市場は大手数社による寡占状態にある。HQのプロダクトにいくら競争力があったとしても、直販だけでシェアを獲得するには長い時間がかかる。そこで同社が選択したのが、圧倒的な顧客基盤を持つ大手企業と強固なアライアンスを組み、市場へ一気にアプローチする戦略だ。
