落とし穴をどう回避したか。実践から導き出した「6つの観点」
稲垣氏は、立ち上げから現在に至るまでの2年間にわたる試行錯誤から得た「パートナービジネスの立ち上げ期に陥りがちな6つの落とし穴とその回避策」を、戦略と実行の2つのカテゴリーに分けて解説した。
【落とし穴1】売れる「型」が無い
パートナービジネスの失敗で最も多いのが、売れる「型」がないままパートナーへ展開してしまうケースだ。売れる型は、直販で顧客に売った経験の蓄積から生まれる。HQは営業プレイブックの整備と研修を徹底し、未経験者でも2週間ほどで成果を出せる型を直販部門で築いた。
ただ、パートナーごとに最適な提案方法は異なるため、常に売り方を修正していく必要がある。さらに現在HQでは、複数商材の展開が急速に進んでいる。直販での検証を完璧に仕上げてから動くのではなく、最初の型を手にした段階でパートナー展開に移り、並行して磨いていくアプローチが求められている。
そのため稲垣氏は、縦軸にプロダクト、横軸にパートナーを据えたマトリクス表を活用。「どのパートナーに、どの商材を組み合わせれば最も親和性が高く、早期の成果につながるか」という適合性を見極め、相手の環境(業界や企業規模)に応じた取扱商材の最適化や、その展開の仕組み化を推進している。
【落とし穴2】パートナーを広げ過ぎる
「お付き合いするパートナー様の数は増やしすぎてはいけない。これはパートナービジネスに取り組む先輩企業の方々から口を酸っぱくして言われていました」と稲垣氏。HQは自社の体制を見極め、直販では接点を持てない顧客基盤を持つ大手企業へと、パートナーを絞り込む道を選んだ。
同社も最初から注力先を絞り込めたわけではない。立ち上げ当初は130社ほどのパートナー候補を洗い出し、検証を繰り返した。その結果、現在は注力パートナーを大手5社に絞り、見極め中の候補も10〜20社にとどめている。
【落とし穴3】協業する理由が弱い
なぜ組むのかを両社が説明できない協業は、どちらの社内でも優先順位が上がらない。そうならないために、稲垣氏は独自の「4つの視点」のチェックリストを意識している。
- 顧客への提供価値:パートナーの先にいる顧客に価値を届けられるか
- パートナーへの価値:パートナーの事業戦略上の課題解決に寄与できるか
- 協業におけるポジショニング:既存メーカーと棲み分けが効いているか
- 自社戦略との整合性:自社の事業戦略と整合しており持続可能か
特に「パートナーへの価値」は、同じ商材でもパートナーごとにまったく異なる。大塚商会なら中小企業の人手不足や離職防止、日本生命なら大手企業の人的資本経営の推進だ。パートナーが抱える課題に合わせて、提案の切り口を「翻訳」する必要がある。
【落とし穴4】契約して終わり
契約しただけで満足すると、その後は失速して何も成果が残らない。分かれ目は、アライアンス開始直後の初動にある。契約後半年のあいだに、パートナーの営業担当者に「このプロダクトはすごい」「HQのメンバーはここまで動いてくれるのか」という強い印象をどれだけ残せるか。ここで最初の実績を作れなければ、アライアンスは続かず、社内でリソースを割き続ける理由も失われる。
【落とし穴5】現場に動いてもらえない
紹介件数を拠点ごとに集計しても、誰に働きかければよいかは見えてこない。案件を紹介するのは個人であり、動かす相手も個人だからだ。稲垣氏も当初は組織単位でしか見ていなかったが、現在は個人単位の把握へと切り替えている。
具体的には、全国のどの拠点の、どの課の誰が、どんな予算を背負い、どんな課題を抱えているのか。そこまで解像度を上げる。そのうえで、案件紹介が突出して多い営業担当者を「チャンピオン」と位置づけ、パートナー企業の社内報などで実名とともにその成果を取り上げてもらう。貢献が社内で正当に認められると同時に、他の担当者も自分の顧客に置き換えて考えられるようになる。こうした積み重ねが、巨大組織の現場を動かしていく。
【落とし穴6】たまたま上手くいった
特定の担当者の頑張りや相性で成果が出ただけなら、次のパートナーでも同じ結果が出るとは限らない。パートナービジネスを偶発的な成功で終わらせないためには、再現性の担保が不可欠だ。そのために現在HQが取り組んでいるのが、パートナーの実態把握である。
パートナー社内でオンボーディングを終えた担当者が何人いて、そのうち実際に案件を動かしているのは何人か。1人あたりの紹介件数はどれくらいか。こうした稼働状況を数字で可視化し、次の打ち手につなげる仕組みづくりを進めている。
結論:「経営・現場の解像度」と「圧倒的な行動量」がすべて

セッションの締めくくりに、稲垣氏はパートナービジネスの要諦をこう総括した。
「パートナービジネスを立ち上げるうえで、戦略やストーリーを描く経営の視点は当然必要です。しかしそれと同時に現場に入って、パートナーの担当者お一人おひとりが、どんな思いで案件を紹介してくださっているのかというところまで深く捉える。この経営と現場、双方に対する『解像度の高さ』と、『圧倒的な行動量』が成果を決めるのだと考えています」(稲垣氏)
仕組みだけに頼るのではなく、パートナーの事業戦略に自社プロダクトを正しくつなぎ、現場の担当者の心に火をつける。この「PPF」と「徹底的な人単位のマネジメント」の積み重ねこそが、パートナービジネスを成功に導き、事業を非連続に成長させる鍵となるだろう。
