膨大なデータでも見えない顧客像を明らかに
━━今回は2025年秋に行われた「リアップ」のプロモーションにおいて、Geminiを活用し大きな成果を上げた事例について伺います。まず、これまでのプロモーションで抱えていた課題について教えてください。
越智:大正製薬では、発毛剤「リアップ」をはじめとするブランドのマーケティングにおいて、定量的な調査データや実際の購買データなど、膨大なデータを活用しています。
しかし、それらのデータをもってしても潜在顧客がどのような意識で生活し、行動しているのかを読み解くのは容易ではありません。
データから浮かび上がるのは「平均的な顧客像」になりがちで、顧客の真意を本当に捉えられているのかという迷いがありました。さらに、立てた仮説の検証をタイムリーに行うことにも難しさを感じていたのです。
━━データは豊富にあるのに、顧客のリアルな顔が見えづらいというジレンマですね。
栄角:はい。もう一つの大きな壁が「スピード」でした。我々の業務プロセスは、ブランド担当がコミュニケーションプランのベースを作り、メディアバイイングの部署や外部の広告代理店様へと引き継がれていく、いわゆるバケツリレー方式になっていました。
━━社内外で機能によって切り分けられた分業体制が定着していたのですね。
栄角:そうです。各々が自分の領域に集中できるメリットはありますが、部門間や社外との連携を往復するだけでタイムラグが生じてしまいます。
激しい市場変化の中で、意思決定までに数週間を要してしまうこのスピード感には、強い危機感を抱いていました。そこで今回の取り組みでは、Geminiを活用することで、関係者が一堂に会してスピーディーに意思決定する新しいアプローチに挑戦しました。
AIに「正解」を丸投げしない。運用の秘訣
━━Geminiを導入するにあたり、マーケターとしてどのような工夫をされたのでしょうか。
越智:最も重視したのは、AIを「答えを出すツール」ではなく「思考を深める対話相手」として位置づけたことです。AIに膨大なデータを読ませて「正解を教えて」と丸投げするのではなく、我々の仮説を検証するための壁打ち相手として活用しました。
━━AIに答えを丸投げすると、思考プロセスがブラックボックス化してしまいますからね。
越智:そのとおりです。具体的には、我々が持つ調査データや購買データ、Google様のインテントデータ、そして電通様の広告データを掛け合わせました。
これらのデータを基に、見込み客として「仮想ペルソナ」をGemini上に構築したのです。 そして、「このデータ傾向を持つ人物は、日常でどんな感情を抱き、生活を送っているか」など、行間を推測させる対話を重ねました。
栄角:AIから抽象的な一般論が返ってこないよう、プロンプトの出し方には特に気をつけています。
ターゲットや課題、KPIといった前提条件をしっかりとチームで定義し、「自分たちはこう考えているがどう思うか」と具体的に問いかけました。
━━最終的な意思決定はあくまで人間が行うというスタンスですね。
栄角:はい。出てきたアイデアをそのまま信じ切るのではなく、我々がブランドを熟知しているからこその感覚と照らし合わせました。
仮説をスピーディーに確かめながら、チーム全員で確信を持てるものに絞り込んでいく。このプロセスが非常に重要だと考えています。
