アジアは「成長市場」であり「実験市場」である
筆者の経験上、日本では「海外視察」というと、最新店舗や新しいデジタル技術を見ることが目的になりがちである。また行く先もアメリカであることが多い。しかし、本当に重要なのは店舗の形や技術ではなく、その背景にある企業の経営思想や顧客との向き合い方、そして消費者の生活や文化を理解することである。
今回のシンガポール視察では、NRF APACへの参加に加え、「FairPrice」、「Guardian」、「Watsons」、「Sephora」、「LOVE BONITO」、「DON DON DONKI」などの店舗視察ツアーを実施した。また、「FairPrice」、「DFI Retail Group」をはじめとする現地企業の講演や、アジア市場に精通した経営者のセッションを聞いた。

加えて、筆者は前回のNRF APACから1年の間、タイ・バンコク、アメリカ・ニューヨーク、サウジアラビア・リヤド、アラブ首長国連邦・ドバイ&アブダビ、イギリス・ロンドン&マンチェスター、そして香港と、海外リテール視察を繰り返すことで、アジアリテールの現在地を確認してきた。
今回の視察を通じて強く感じたのは、アジアは「世界最大の成長市場」である以前に、「世界最大の実験市場」であることだ。世界中の企業がアジアで新しいビジネスモデルを試し、その成功モデルが欧米や日本へ広がっていく。その変化のスピードは、日本とは比較にならないほど早い。
「未来の買い物」を体験できる場所
NRF APACでは、世界の消費市場は、新興国を中心とした中間所得者層の台頭やデジタル化の進展により、2035年までに約110兆ドルへ成長。その中心を、APACが担うことが繰り返し紹介された。中間所得層の増加も顕著だ。世界全体の中間所得層の約8割がアジアで生まれるとされており、人口・所得・都市化のすべてが追い風となっている。
しかし、アジアの価値は市場規模だけではない。ライブコマース、スーパーアプリ、キャッシュレス決済、AI接客、リテールメディアなど、常に新しい小売モデルが最初に社会実装されてきたことにある。
たとえば、中国ではライブコマースが購買行動として定着し、韓国では美容・エンターテインメント・SNSが一体となった消費体験が一般化している。「K-」という展開は韓国にとどまらず、日本を含む世界中の小売で見られる。東南アジアではTikTok ShopやShopeeなど、SNSとECが融合した購買体験が日常になっている。つまりアジアは、「未来の買い物」を体験できる場所なのである。
