データがあっても的確に質問に答えられるか
「商品データなら、一通り揃っています」。そう言える会社でも、もう1つだけ確かめてみたいことがあります。果たして、その商品データだけを渡された担当者は、お客様の相談に的確に答えられるでしょうか。
たとえば、「このシャツは、出張先のホテルで洗って翌朝着られますか」という質問。素材もサイズも登録されている。商品説明には「旅に寄り添う一着」とある。けれども、洗い方や乾きやすさについては、企画担当者に聞かなければわからない。そんな状態は、十分に起こり得ます。このように、データがあることと、相談に答えられることの間には、思いのほか隔たりがあるのです。
前回は、その距離を埋める土台として、コンテキストとオントロジーを取り上げました。これは、AIが判断するための文脈と、自社の概念や関係、ルールを明らかにした地図のことです。今回は、その地図がどこまで描けているのかをチェックしていきます。
問い1:その言葉は、社内で同じ意味になっているか
ここから挙げる5つの問いは、私なりにECの実務へ落とした点検の視点です。まずは、1つの商品群で考えてみてください。
最初に見たいのは、「言葉の定義」です。「定番」「軽量」「ギフト向け」。商品マスターには、便利な言葉が並びます。ただ、その言葉を選ぶ基準まで共有されているでしょうか。定番とは、年間を通じて販売する商品なのか、売れ行きが安定している商品なのか。ギフト向けとは、包装できるという意味なのか、相手のサイズを知らなくても贈れるという意味なのか。人は会話の流れで補いますが、AIに渡すときには、その補い方も含めて考える必要があります。
まず、社内でよく使う言葉を10個ほど拾い、担当者同士で意味を照らしてみてください。それだけでも、出発点は見えます。もし説明が食い違うなら、先にすり合わせる必要があります。AIに読ませる文章を増やしても、社内で定義されていない言葉の意味を、AIが勝手に決めてはくれません。
また、自社の言葉と、外部に渡す分類との対応も見ておきたいところです。Shopifyは2026年6月のCatalogの解説で、商品を共通の分類体系に対応づけ、属性を整理・補完する仕組みを説明しています[1]。ブランド独自のシリーズ名は、そのままでいい。しかし、その商品が何に分類され、どんな素材やサイズを持つのかは、データとして別に持っておく必要があります。ブランドらしい言葉を残しながら、他者にも通じる説明を添える感覚です。
カテゴリーを整えるのは、その第一歩に当たります。そこから、言葉の定義、商品同士の関係、判断の条件まで書き足していくと、前回お話しした「自社という世界の地図」に近づいていきます。
[1] Shopify『What Is Shopify Catalog and How Does It Work?』(2026年6月16日公開)
問い2:商品同士の関係を、理由まで説明できるか
2つ目は、「商品同士のつながり」です。ECサイトには、関連商品やおすすめ商品の枠があります。そのひも付けを、理由まで説明できるでしょうか。
「一緒によく買われる」と「代わりに使える」は、用途の異なる関係です。コーヒー器具と交換用フィルターは一緒に使う。容量の違う2つの器具は、人数や使い方によって選び分ける。どちらも「関連商品」という1つの箱に入っていると、お客様の相談に応じて使い分けるには情報が足りません。
たとえば、「いつものフィルターが欠品しているので、代わりを探したい」という相談を考えます。同じブランドの商品を出せば済むわけではない。器具の型番や形状に合うかを確かめる必要がある。商品Aと商品Bをつなぐ線に、「この器具で使える」「サイズは同じだが素材が違う」と理由が添えられていれば、判断の道筋が見えてきます。
このとき、使える条件と同じくらい、使えない条件も大事です。旧モデルには対応しない。このセットでは追加包装を選べない。例外は、詳しい担当者ほど頭のなかに持っているものですが、そこを少しずつ言語化、可視化していく。商品を売るための知識には、薦める理由も、薦めるのを控える理由も含まれるのです。
ブランドらしさも、こうした関係のなかに置けます。「長く使ってほしい」と考えるブランドなら、買い替え候補とともに、交換部品や修理窓口へつながる道を用意する。その考え方がデータやルールに結びついていれば、AIの提案にも反映させやすくなる。きれいな理念の文章が、単なる理想論ではなく、具体的な接客の判断に実装されるのです。
