ECサイトにおける顧客体験(CX)の重要性が高まる中、定量データだけでは見えない「顧客の心理や行動文脈」の理解が課題となっている。2026年7月7日開催の「CX Circle 2026 Tokyo」では、資生堂ジャパンとTSIの担当者が登壇した。独自の世界観を持つブランドを多く取り扱う両社が、顧客の行動データ分析を通じていかにしてUX改善やデータ駆動型の組織改革を実現したのか。その実践手法と裏側をレポートする。
デジタル上の“資生堂百貨店”へ。大規模刷新に伴う「見えない不安」
資生堂ジャパンは、1874年の創業以来、時代の変化に合わせて顧客との接点を進化させてきた。2024年には、旧ECサイトである「ワタシプラス」を刷新し、資生堂公式の「資生堂オンラインストア」として生まれ変わらせた。単なる商品の販売チャネルではなく、プレステージブランドを多く扱う同社にとって、オンラインストアは「価値提案のプラットフォーム」だ。リアル店舗と遜色ないデジタル体験を提供し、来訪するすべての人に新しい価値を届ける「デジタル上の資生堂百貨店」を目指して設計された。
このような「ブランドドリブン(資生堂側の意思や世界観)」と、顧客の行動や声を反映する「マーケットイン」のハイブリッド運営を進める中で、現場では新たな課題に直面していた。UI/UXの改善頻度が上がり、半期で約100件もの施策を実行する一方で、従来のアクセス解析ツールだけでは結果の因果関係が見えにくかった。同社の森田慶仁氏は当時の状況を次のように振り返る。
「大小様々ですが、2026年の案件は6月時点で100件ぐらいありました。私が2023年にUXの担当者として在籍していたときは年間で30~40件くらいでしたので、3年前と比べると2倍以上のペースで行っている状況です」(森田氏)
変化のスピードに顧客理解の解像度が追いつかず、「本当にお客様に届いているのか」という不安を抱えていた。CVRなどの数値は動くが、「なぜ動いたか」がわからない。高速な仮説検証は行っていたものの、数値だけで見るとブランド体験を毀損するリスクにもなる。行動履歴の可視化が急務となった同社は、行動変容を詳細に捉える分析ツール「Contentsquare(コンテンツスクエア)」の導入を決断した。
行動データで「なぜ」を解き明かす。因果関係に迫るUX改善事例
Contentsquareを導入したことにより、PVやコンバージョン率(CVR)といった結果だけでなく、「サイト内アクションの解像度を上げた分析」が可能となった。資生堂ジャパンはそれまで、Adobe Analyticsなどの従来の計測ツールで「何が起きたか」を把握し、自社で収集する約3,000件のユーザーボイスで「どう感じたか」を補完してきたが、その間の「なぜそのアクションに至ったのか」という行動文脈を紐解けるようになった。
具体的な分析機能を用いた改善事例の1つが、カスタマージャーニーを可視化する機能を活用した動線の短縮だ。ユーザーがマイページの購入履歴から改めて購入したい場合、従来は一度商品ページを挟んでカートインする仕組みだったため、そこで離脱が発生していたことが判明。これを購入履歴から直接カートに入れられるように改修したところ、購入履歴からカートに進む割合が4.7%から16.6%へと大幅に跳ね上がった。さらに、購入履歴とカートを往復する新たなユーザー行動のパターンが発見され、複数購入機能を付与する次の改善へとつながっている。
また、商品ページのレイアウト変更においては、ゾーニング分析を活用して効果を定量的に把握した。同社が展開するトータルメイクアップブランド「MAQuillAGE(マキアージュ)」の商品ページにおいて、ユーザーの解像度が高まる画像を商品画像の後に配置したところ、ファーストビュー領域のクリック指標が59%向上し、優れた改善であることをデータで証明できた。
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安原 直登(編集部)(ヤスハラ ナオト)
大学卒業後、編集プロダクションに入社。サブカルチャー、趣味系を中心に、デザイン、トレーニング、ビジネスなどの広いジャンルで、実用書の企画と編集を経験。2019年、翔泳社に入社し、MarkeZine編集部に所属。
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