好意と選択の間にあるもの
私たちは今、ブランドについて、かつてないほど多くのことを知ることができます。認知度も、好意度も、購入意向も、調査やSNS、EC、CRMを通じて細かく測れるようになりました。
ところが、数字の良いブランドが、実際に選ばれるとは限りません。
HAVASの調査から、84%のブランドが、生活者に強い「欲望(Desire)」を生み出せていないことがわかりました。ここでいう欲望とは、「なぜか気になる」「自分に合っている気がする」「次もこれを選びたい」。そんな、ブランドを選びたくなる気持ちのことです。
興味深いのは、この気持ちが、認知度や好意度、購入意向だけでは捉えきれないことです。ブランドを知っていて、好感を持ち、「買ってもよい」と答えていても、実際に「これを選びたい」と思うとは限りません。少し安い、少し近い、少し便利な商品があれば、簡単に別のブランドへ移ってしまいます。
だからこそ、ブランドが選ばれ続けるためには、認知や好意だけでなく、生活者のなかにこの「欲望」が育っているかにも目を向ける必要があります。
「欲望」が、ブランドを成長させる
この「欲望」は、ブランドの成長と深く結びついています。今回の調査では、世界8万人以上の生活者を対象に、45カテゴリー、2,411ブランドを分析。その結果、「欲望」を測る数値が高いブランドほど、話題になりやすく、価格を受け入れてもらいやすく、購入時の候補にも入りやすいことがわかっています。
つまり「欲望」とは、ブランドへの好意を、実際の需要や繰り返される選択へ変えていく力なのです。さらに、これは特定のカテゴリーに限られず、幅広いブランドが「欲望」を育てられる可能性も示されました。
「欲望」は、どう生まれるのか
では、この「選びたくなる気持ち」は、どこから生まれるのでしょうか。調査データを読み解くと、そこには3つのドライバーが関わっていることが見えてきました。ここからは、事例を通して、生活者の気持ちを動かす力と、それを引き出すメディア接点の作り方を見ていきます。
1. Attraction(関心を生む力)――無関心を「気になる」に変える
最初の入口は、Attraction(関心を生む力) です。これは、生活者の目と心を引き寄せ、「これ、なんだろう」「ちょっとおもしろい」「他とは違う」と感じてもらう力です。「ちょっと気になる」。そう感じたとき、ブランドは「ただ知っているだけ」の存在ではなくなり、そこからブランドへの欲望が始まります。
事例:Mercado Livre - Field Barcode
Mercado Livreは、ブラジルの大手ECサイトです。同社は長年、サッカー大会のスポンサーを務めてきました。しかし、試合中継ではロゴが映っていても、視聴者の意識に強く残りにくいという課題がありました。
そこで実施したのが「Field Barcode」です。ピッチの芝を104メートルの巨大なバーコードのように刈り込み、試合中継を見ている人がスマートフォンでフィールドをスキャンすると、25%オフのクーポンが手に入る仕組みにしました。
視聴者は「え、フィールドがバーコード?」という驚きから自然に注目し、そのままスマートフォンで参加できる体験へと誘導されました。結果として、5万3,000件のクーポン利用、プラットフォームセッションの7%増につながりました。ブラジルで強い文化的関心が集まるサッカーという場を捉え、視聴から購買までを一続きの体験に変えたのです。
夢中のなかに、きっかけを作る
無関心を、どうすれば「気になる」に変えられるのか。Attraction(関心を生む力)で求められるのは、生活者がすでに夢中になっている文脈の中に、新たなきっかけを作ることです。
一般的には、認知を広げる施策では、まずはメディアのリーチと接触回数を考えます。より多くの人に、より多く広告を届ける設計です。一方で、今回Mercado Livreの事例のように、単に露出を増やすのではなく、サッカー中継のなかで、芝生をバーコード化するというアイデアは、視聴者からの自然な興味関心を生み出しました。メディアの使い方そのものを変える。その新しいアプローチが、生活者の無関心を破る入口になったのです。
調査でも、Attractionの高いブランドは、好印象や推奨、ポジティブな評判と強く結びついていました。ただ見てもらうのではなく、思わず反応したくなる。そんな接点が、その後の関係を作る入口になります。
