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MarkeZine Day 2026 Autumn

注目マーケティングトピックス2026

“売れる匂いのしない企画”を脱する秘訣は?今鍛えるべき「具体と抽象」を行き来するインサイト思考術

 市場の成熟化にともない、消費者が無自覚な欲求「インサイト」を捉える重要性が増しています。AIの広がりがプロダクトやマーケティング施策のコモディティ化を一層後押しする中、消費者が「これが欲しかった」と感じる価値を見つけ、企画や商品開発、コミュニケーションへ適切に落とし込むにはどうすればよいのでしょうか。本記事では、ロングセラー『「欲しい」の本質 人を動かす無自覚な欲求「インサイト」の見つけ方』(宣伝会議)の著者であり、国内のインサイトリサーチを牽引してきたデコムの大松孝弘氏にインタビュー。成熟市場かつAI時代の今こそ、マーケターがインサイトを捉え向き合う重要性を探ります。

インサイトリサーチの先駆者が振り返る、過去20年の市場環境と調査領域の変遷

MarkeZine編集部(以下、MZ):インサイトリサーチ領域における先駆者である大松さんに「今、マーケターが向き合うべきインサイト」をテーマにお話をうかがいます。まずは、20年以上ずっとこの領域に向き合って来られた中、これまでの変遷や昨今の生成AIの登場などによる変化を改めて整理いただけますか。

大松:インサイトは、今でこそマーケティング領域に定着した考え方です。しかし、私がデコムを設立した2004年当時は、「オカルトを語っている」「変わった考え方」といった扱われ方で、簡単には受け入れてもらえませんでした。

 また、「リサーチ・調査」というと、「仮説ありきで、それを検証するもの」という「仮説検証型調査」こそがすべてだと認識されていたのです。リサーチを行うことで新たな仮説を発見するアプローチ自体の必要性が理解されておらず、「仮説は自分で考えて持つもの」と思われていました。もちろん、自分で仮説を持つこと自体は正しいのですが、その情報をどこからどう得てくるのか、のプロセスが考慮されていなかったのです。

株式会社デコム 代表取締役社長 大松 孝弘氏 2004年にデコムを設立し、一貫してインサイトリサーチやアイデア開発に携わってきた。インサイトリサーチの手法を体系化した『図解やさしくわかるインサイトマーケティング』(日本能率協会マネジメントセンター)を2006年に執筆。その後2017年に上梓した書籍『「欲しい」の本質』は、発売以来ロングセラーに。現在もインサイトを軸に、企業の課題解決や人財育成に取り組む。
株式会社デコム 代表取締役社長 大松 孝弘氏
2004年にデコムを設立し、一貫してインサイトリサーチやアイデア開発に携わってきた。インサイトリサーチの手法を体系化した『図解やさしくわかるインサイトマーケティング』(日本能率協会マネジメントセンター)を2006年に執筆。その後2017年に上梓した書籍『「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』(宣伝会議)は、発売以来ロングセラーに。現在もインサイトを軸に、企業の課題解決や人材育成に取り組む。

大松:特に当時の企業の意思決定者層は、高度経済成長期の現場でキャリアをスタートした人たちであり、成熟した市場における苦労を現場でそれほど経験していませんでした。そのため、仮説探索の重要性や、単なるニーズではなく「顧客自身も気づいていないが真に求めていること」を企業側が探し出す「探索型調査」の必要性を感じていなかったのです。

 今から20年前の時点で既に国内市場は成熟していましたが、日本の低成長期は平成初期(1980年代後半~90年代)頃から徐々に始まっていました。2004年~2006年頃になると、その下の世代の人たちが部長職などのポジションに就き始めました。その頃から、先駆的な精神を持った方々には探索型調査の重要性が認知されるようになりました。

MZ:高度経済成長期の成長市場は、顧客のニーズは明確で、とにかく商品を作って大量に広告を打てば売れた時代だったわけですね。

大松:そのとおりです。むしろ、オペレーション力が重要だったので、質の良いものを効率的に作って安く売れば買ってもらえたのです。しかし市場が成熟し、現在は「顧客も気づいていない欲求を理解しなければ、差別化や事業成長につながらない」という理解が広がったと感じます。

企業が陥る「3つの壁」とは

MZ:昨今の状況では、どのようなことが課題になっているのでしょうか。

大松:多くの企業が、既存の事業や商品を伸ばしたい「深化」の活動と、新しい商品や事業を生み出したい「探索」の活動という、「両利きの経営」の推進を求めています。しかし、なかなか実現できていないのが実状です。

 カギとなるのは、既存事業のさらなる成長にも新規事業・商品の開発にも、「顧客のインサイトを捉えて新たな価値を創造する」ことが不可欠である点です。消費者や顧客が求めているものの十分充たされていない、本人も気づいていない強い欲求(=インサイト)。これを充たすことが、新しい価値につながります。

 インサイトを発掘するにあたって、多くの企業に共通する3つの課題があると考えています。

 1つ目は、自分の携わる製品カテゴリーの中だけで物事を見てしまう「近視眼問題」です。たとえば、そのカテゴリー内の販売データやユーザーの行動・認識の分析など、すべての対象が特定のカテゴリーの視野の中に留まっています。

 当然ながら、特定のカテゴリーだけに“全振り”して生きている人間など存在しません。それにもかかわらず、狭い視野で分析した結果をマーケティング施策や商品開発に展開してしまうのです。すると、人間の欲求はすべて後回し(後付け)になってしまいます。

 本当に人が求めているのに十分充たされていない部分を起点にしなければ、インサイトは絶対に見つかりません。未充足な欲求の中から自社のアセットを活かせるもの、あるいは自社のカテゴリーで充たせるものを探索する活動こそが、インサイトを見つけるということです。人の興味関心や未充足欲求は多く存在しますから、それらと自社のカテゴリーや提供可能な価値との接点を見つけ出す、非常に重要であり欠かせない作業です。

 カテゴリーの枠を超えて広く全体を見に行くことを、近視眼に対して「大局眼」と呼んでいます。大局眼を持って仕事をしなければインサイトは見つかりません。

 2つ目の課題は、「探索の不確実性」です。探索的な作業は、不確実性が非常に高いものです。どれだけ頑張っても何もわからないかもしれませんが、やらなければならない。しかし仕事には期限や目標、様々な制約があり、効率的な成果創出が求められます。また、顧客本人も気づいていない欲求は、ストレートに質問しても当然答えは得られませんから、方法や手順がわからないこともボトルネックです。

 そして3つ目の課題は、私が「具体→具体の思考」と呼ぶものです。具体から具体を直接考えてしまうことで、プロセスの間に「人の欲求」という抽象概念の深掘りが存在しないのです。

 本来、インサイトを発見する作業は、1人の人間の事実に向き合う「超具体」から始まります。具体を起点に、市場全体や多くの顧客に共通する「充たされていない欲求」を定義する「抽象化」を行います。欲求や価値は目に見えない抽象概念ですが、具体から一度抽象化し、その抽象化された欲求や価値を自社のアセットで充たす施策へ落とし込んでいく。つまり、具体と抽象を行ったり来たりして進める必要があるのです。

MZ:顧客1人の具体事例から見つけたモヤモヤや不快を、集団に共通する課題・未充足欲求として捉え、具体策に落とし込んでいくステップですね。

大松:そのとおりです。しかし多くの企業では、具体から直接具体を発想してしまいます。抽象的な「顧客インサイト」や「提供価値」は、後付けで作っているだけなのです。

MZ:インタビューで得られた発言をそのままインサイトとして記述し、「我が社で解決しましょう」と推し進めるイメージですね。

大松:例として、「今、日本で梨の消費量が伸びている」という具体事実に対し、「それでは、梨味の商品を出そう」と飲料会社が考えるようなものです。本来、梨ならではの価値や充たされる欲求といった理由があるからこそ市場が伸びているわけですよね。そうした深掘りなしに、自分が炭酸飲料の担当だからといって近視眼的に「炭酸飲料に役立つファクト」を探し、「梨の消費量が伸びている」という情報を見つけて「梨フレーバーの炭酸を出す」と考えてしまうのです。

 その工程で作られた企画書には、売れる匂いがまったくしません。なぜなら人間が不在だからです。人間の欲求から始まっておらず深掘りもしていないため、企画としては成立しているように見えても顧客には刺さらない。上層部も「消費量が伸びているファクトがあるなら」と通してしまい、結局売れずに終わる事態が起きてしまうのです。

9月9日開催 MarkeZine Day 2026 Autumnに大松氏が登壇!

「AI時代にマーケターが磨くべきインサイトの発見力と見極め方」をテーマとした17:25~18:05のセッションに、大松孝弘氏が登壇。本インタビュー内容のさらなる実践編として、AI時代に「人を動かす無自覚な欲求(インサイト)」をどう発掘し、ビジネスの勝機に変える「アイデア」を生み出すかを解説します。

詳しくは、以下からイベントサイトをチェック!

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「インサイトに正解はない」の誤解と、マーケターが持つべき思考プロセス

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この記事の著者

吉永 翠(編集部)(ヨシナガ ミドリ)

大学院卒業後、新卒で翔泳社に入社しMarkeZine編集部に所属。学生時代はスポーツマーケティングの研究をしていました。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2026/08/20 08:00 https://markezine.jp/article/detail/77191

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