インターネット広告とサイバーエージェントの歩み
──この20年、検索連動型広告の台頭、スマホやSNSへのシフト、プログラマティック化、そして生成AIの登場と、インターネット広告市場は大きく変化してきました。内藤さんが現場で「景色が一変した」と感じた転換点はどこにありましたか。
大きくは2つあります。1つは2002年頃の、Googleに代表される検索連動型広告の登場、もう1つは2007年頃の、Facebookに代表されるSNS広告の登場です。
2001年サイバーエージェント入社。インターネット広告事業本部の統括本部長等を経て、2010年取締役に就任。2020年より常務執行役員。現在は、AIの研究・開発を担うAI事業をはじめ、クリエイティブ、DX、オペレーションの各事業部門を管掌
検索連動型広告が登場するまでのインターネット広告市場は、マス広告が「早く・安くなった」ような予約型広告のマーケットでした。一度設定すれば1週間同じものが流れ続けるというシンプルな仕組みでした。
しかし、オークション形式で価格もクリエイティブも変動する運用型広告の仕組みがスタートしてからは、まったくの「別物」になりましたね。「誰に」「いくらで」「どの広告」を配信するか正しく制御する必要があったため、自動入札ツールをはじめとしたオペレーションを支えるための技術や、それを実現できるエンジニア人材が求められるようになりました。
──その後、Facebook登場の際にはどのように市場が変化したのでしょう。
入札やターゲティングの技術に加えて、SNS広告ではクリエイティブの重要性が高まりました。テキスト、静止画、動画など、多様なフォーマットに対して、どれだけ多く、効果の高いクリエイティブを作れるか。そのための画像処理や自然言語処理技術が発展していった時代でもあります。
広告会社に求められる人員資源や能力も、営業やマーケティング人材中心から、技術者、AI研究者と広域に発展していきました。当社の歩みを振り返ると、インターネット広告での専門性の高さを大事にしてきた会社なので、「インターネット広告の歴史はスタッフ拡張の歴史」とも言えるでしょう。
──では、サイバーエージェントにおける人材・組織拡張の歴史についても簡単に教えてください。
2008年からサイバーエージェント全体でエンジニアの新卒採用をスタートし、技術組織を強化してきました。アドテクの転換期であった2012年頃には、当社も多くのアドテクプロダクトを開発しています。翌2013年にはアドテク本部を設立し、そこに機械学習を取り入れようという流れが生まれました。これを機に、専門知識とアイデアを持つ研究人材の獲得や、大学などアカデミアとの連携に力を入れるようになっています。
このように、当社は2010年代の早期からAI×広告の可能性に着目し、広告効果を高めるためのAI研究を重ねています。
サイバーエージェントにおけるアドテク×AIの変遷
- 2013年10月1日:アドテク本部を設立し、エンジニアの横断組織「アドテクスタジオ」を設置。内藤氏がアドテク本部の責任者に就任。
- 2014年:広告配信の精度向上に取り組む専門チームを発足。このチームが2016年設立のAI Labの前身となる。
- 2016年1月19日:AI研究開発組織「AI Lab」を設立
- 2019年:アドテク事業本部から組織名称を変更し「AI事業本部」設立
- 2020年5月:「極シリーズ」を提供開始。広告効果の事前予測と素材の自動生成
- 2021年:基盤モデル開発の構想開始、LLMをオープンデータでの公開を構想
- 2023年5月:独自の日本語LLM「CALM」を公開
業界潮流を読み「エンジニアリング」と「AI」に勝負をかけた
──「勝負をかけた」タイミングはありますか。
2000年代後半です。アドテクのマーケットが広がるなかで、エンジニア組織の強固さが今後のインターネット広告の勝敗を左右すると2010年頃には確信し、2013年のアドテク本部設立を機にエンジニア採用を一気に拡大させました。
テレビCM全盛期、優秀なCMプランナーやクリエイターは大手広告会社に集中していましたよね。それと同じです。インターネット広告時代の中核はエンジニアリング。時代が変わるこの局面で優秀なエンジニアを揃えなければ、「勝ちに行く」ことはできないという危機感がありました。
とはいえ、これは簡単な話ではありませんでした。元々私たちは営業色が強い会社だったので、そのままの文化では、エンジニアは入社してくれません。給与体系も評価制度も、営業中心の会社とはまるで違う。会社が持っている資源や能力そのものを変える必要があったので、多くの工夫をしましたね。
優秀なエンジニアほど最先端の言語や技術、大量のデータに触れられる環境を求めています。そうした“研究としても技術的にも面白い”環境作りを重ねた結果、多くのエンジニアや研究者が集まり、今も活躍してくれています。
──AI組織立ち上げについても伺わせてください。AI研究開発組織「AI Lab」設立が2016年、前身となる組織は2014年と、一歩早く動かれています。なぜ、この時点でAIに投資しようと考えたのでしょうか。
私たちがパフォーマンスを上げていくために、AIは欠かせない要素だからです。どれだけターゲティングを精緻にしても、同じクリエイティブを当て続けるだけでは、パフォーマンスを高めることはできません。広告効果を高めるには、クリエイティブを大量に作り、検証、改善していくことが必要です。
しかし、人の手で作れる量には限界があります。必然的に、コンピュータービジョン(機械が画像や動画を自動認識する技術)や自然言語処理といった分野のAI研究が必要となっていきました。
