ダイバーシティが無視できなくなってきた
白石:山田さんはMarkeZineでクリエイティブの事例をまとめたデータベース『AdGang』をもとにした連載を展開されていました。今回は「クリエイティブ×ダイバーシティ」という観点で、山田さんと国内外の企業のダイバーシティへの取り組みの意味を考えていきたいと思います。
山田:私は仕事柄、多くの広告表現やキャンペーン施策をチェックしているのですが、昨今、広告クリエイティブとダイバーシティの相関性は非常に高くなってきているように思います。たとえば食品業界ですと、顧客がオールターゲット、つまり「全世界の人々」であるコカ・コーラやマクドナルドは従来からダイバーシティを意識した広告クリエイティブを展開しています。ただ、その他大多数の企業においては、こうしたブランディング手法はそこまで浸透していなかったのではないでしょうか。
ところが、最近ではデジタル・SNSの普及もあって、企業の広告クリエイティブに対する批判の声が可視化されるようになり、ネット上で炎上するケースなども見られるようになってきました。こうした背景もあり、企業がクリエイティブを通じて発信するブランドメッセージにおいては、もはや「ダイバーシティ(の考え方)を無視できない」状況にすらなっています。
白石:「ダイバーシティ」とひとことで言っても、それをどうヴィジュアルやメッセージで表現し、届けていくか、その切り口は多様ですし、消費者からの反応も予想外の展開を見せることがあります。いくつかキーワードがある中で、まずはじめに「クリエイティブ×ダイバーシティ」の現在のトレンドから見ていきたいと思います。
「実験型」を活用してブランド想起を促進
山田:はい。ひとつのトレンドとして、最近では「実験型のクリエイティブ」がよく取り入れられているように思います。こちらはオランダのビールブランドであるハイネケンが展開した動画で話題となりました。
広告主:Heineken(ハイネケン)
公開日:2017年4月20日
白石:この動画は、日本国内でも、『ハフポスト』が取り上げていましたね。相反する思想を持った2人を同じ空間に入れるとどうなるのか、という実験型のストーリーが目を引きます。
山田:実験型の特徴として、共感性が高い点が挙げられます。動画を視聴していくにつれて視聴者がその世界観に没入していき、視聴完了する頃にはそれが自分ごとになっていく設計になっています。生理用品を扱う米Alwaysも「#LikeAGirl
広告主:Always
公開日:2014年6月26日
白石:ダイバーシティの取り組みは自分ごとにするのが困難だと言われる中で、誰もが自分ごと化できるような要素を入れているというのは見事ですね。
山田:「初めて会った2人が共同作業していく」というストーリーが、ブランド側がイメージする消費シーンをうまく表現しています。
白石:違った価値観を持った人同士でも一緒にビールを飲むことで打ち解ける、その象徴として「ハイネケン」というブランドが刷り込まれていくと。
山田:おっしゃる通りですね。自分と価値観が同じであろうと違っていようと、「お互いのことをより深く知りたいと思ったときにひとつのツールとしてハイネケンがある」というところまでブランドの想起をスムーズに促している点に驚きました。
実のところ、ダイバーシティを意識した広告クリエイティブの中にブランド色を残しすぎたことで、かえってネガティブに捉えられてしまうケースも少なくありません。こういった場合の多くは、消費者からすると「フェミニズムを利用しているだけじゃないか」「ダイバーシティという今のトレンドを追いかけているだけじゃないか」といった印象につながるようです。ハイネケンのケースはマーケティング要素とのバランス感覚について考えさせられるクリエイティブです。