BtoBマーケティングリサーチの基礎を学ぶ!
─ BtoBマーケティングのリサーチはBtoCと何が違う?ハマりやすい2つの落とし穴
─ 「成果を出しても評価されない」のはなぜ?リサーチ調査から見る経営層とマーケ現場のギャップ
─ マーケの打ち手はどこで効く?決裁者849人に聞いた、 検討プロセスから導入決定までの本音
─ BtoBマーケで調査結果が施策に繋がらない原因はデータの量・質にあらず!データ分析の基本作法を学ぶ(本記事)
分析の基本:平均値の盲点を「分布」と「比較」で補う
第2回、第3回では実際の調査結果をもとにBtoB企業の実態を紐解き、施策へのヒントを提供しました。このようにリサーチは有用な一方で、「集計表やグラフでデータの全体傾向はわかっても次の施策が見えてこない」というお悩みを、BtoBマーケティングの現場でよく耳にします。
BtoBマーケティングのデータ分析に、BtoCとまったく異なる特殊な統計手法があるわけではありません。しかし、BtoBでは調査対象となる母集団が小さくなりやすく、意思決定者・実務担当者・利用者が異なることも多いため、「誰のデータを見ているのか」によって示唆が大きく変わります。
また、商材の検討期間が長く、営業の接点や業務システム上のデータと接続しなければ、マーケティング施策の効果が見えにくい特徴もあります。だからこそ、全体の平均値や集計表という「表面的な数字」だけで判断しない姿勢が重要になります。
この記事ではBtoBマーケターの方がデータ分析を行う際に、特に押さえておきたい情報をお伝えします。
全体傾向だけでなく、「分布」に目を向ける
まずは分析の基本、「分布」について説明します。調査結果を見る際、最初に目が行くのは全体スコアや平均値です。平均値は、満足度や導入意向、認知率や利用率など全体の傾向をつかむうえでは便利です。しかし、それだけで意思決定をするのは危険です。
たとえば満足度を調べる際に、スコアが5点満点で平均値が4.2点だったとします。高評価に見えますが、4~5点に回答が集中している場合(パターンA:中央集中型)と、1〜2点と5点に大きく割れている場合(パターンB:分散・両極端型)では意味がまったく異なります(図表1)。
パターンAは多くの顧客から安定した評価を得ている状態と考えられますが、パターンBはファンと不満層に二極化している可能性があります。この違いを見落とすと、不満層を見過ごしたり、逆に一部の不満に引きずられて全体方針を誤り、ファンを離してしまったりする可能性があります。
「比較」の視点が問いを生む
さらに、冒頭で述べた通りBtoBでは「誰の回答か」という比較軸も重要です 。同じ企業内でも、予算を決める意思決定者と施策を実行する実務者、実際に使う利用者では重視するポイントや評価基準が異なるからです。
本連載の第2回では、BtoBマーケター744名を対象とした調査から、マーケティング予算の増減を分析しました。単純集計では「予算が増加した割合は全体の約45%」でしたが、同じ結果を意思決定レベル別に比較してみると、意思決定者では約58%が「予算増加」と答えた一方、実務者では約38%にとどまりました(図表2)。
ここで重要なのは数字の大小ではなく、比較によって「なぜこの差が出るのか」「この差は施策の優先順位や社内コミュニケーションにどう影響するか」という問いを生みだすことです。こうした問いが立って初めて、調査データは次のアクションにつながります。
データは単体の数字だけでは意味を持ちにくいものです。特にBtoBでは、意思決定への関与度や職種、企業規模、検討フェーズなどの比較軸を持つことで、全体平均の裏側にある構造が見えてきます。
集計表だけで終わらせない!ローデータと自由回答の扱い方
回答数が限られるBtoB調査だからこそローデータを読み込める
集計表は、全体傾向をつかみ比較軸ごとの差を見るには非常に有効ですが、回答を要約したものなので、回答者それぞれがどのように回答したかといった文脈や、回答者の温度感は削ぎ落とされます。
特にBtoB調査では、回答数が限られることも少なくありません。業種・職種・役職・企業規模などで絞ると、最小単位の母集団が20〜30件程度になることもあります。統計においてサンプルサイズが小さいと偏りや誤差が生じるため、仮にクロス集計でスコアに差が出ていたとしても、それだけで結論付けることは危険です。
一方で、回答数が限られるからこそ、ローデータを読み込み個別の文脈まで深く理解することができます。
自由回答(FA)も同様で、選択肢では拾えない不満や顧客の悩み、期待などが顧客自身の言葉で語られています。数百名規模の調査ならすべて読むことをお薦めします。少なくとも、重要な設問の自由回答には目を通しましょう。
その時にAIを活用するのも有効です。大量にある自由回答の分類や、頻出する論点の抽出、ポジティブ・ネガティブの傾向を把握するうえで、AIは強力な補助になります。しかし、顧客の言葉に触れずに最初からAIの要約だけを見てしまうと、少数だが重要な違和感や、顧客特有の言い回しを見落とすことがあります。数字の解釈の深さも変わってくるでしょう。
そのため、自由回答を読む作業をAIに置き換えるのではなく、読み込んだ内容を整理し、仮説を広げるためのツールとしてAI使うと良いです。
自由回答に表れる「違和感」を大切にする
選択肢の回答と自由回答の温度感は一致しないこともあります。
たとえば、満足度が低く出ていても、自由回答を読むと「機能には満足しているが、社内展開に時間がかかっている」「担当者の対応は良いが、運用ルールが複雑」といった前向きな文脈が見えることがあります。逆に、選択肢では高い評価でも自由回答に「現時点では問題ないが、今後の拡張性に不安がある」といった懸念が書かれていることもあります。
定量の結果は傾向をつかむために有効で、自由回答にはその背景や条件付きの評価が表れます。定量結果を否定するのではなく、正しく解釈するために、自由回答やローデータを確認する必要があるのです。
特に自由回答にはサービス改善のヒントや、数値だけでは見落としやすい「違和感」が表れます。ローデータや自由回答を見るときは、この違和感を大事にしたいです。集計表の数字と個票の内容が噛み合わない、特定の属性の人だけが強い言葉を使っている、想定外の理由が何度も出てくる……こうした違和感は新しい仮説につながることがあります。
データ分析というと、仮説を検証する作業だと思われがちです。もちろんそれも重要ですが、実務ではデータを見ながら仮説を見つけることも多くあります。集計表で傾向をつかみ、ローデータで文脈を確認し、自由回答で顧客の言葉に触れる。この往復をすることで、数字を少しずつ立体的に解釈できるようになります。
ここまで、データが揃った後の見方について説明をしてきました。しかし、データ分析は、調査設計の段階から始まっていると言っても過言ではありません。データが納品されてから「重要度も聞けばよかった」「検討フェーズ別に見たかった」と気付いても、必要な指標を取っていなければ深掘りできないからです。
次のページでは調査設計時のポイントを説明します。
