AI時代、ブランドは何で選ばれ、信頼されるのか
機能、価格、レビュー、使い方――。AIが情報を要約・比較する時代、こうした「画面の中で説明できる強み」は、生活者の目に横並びに見えやすくなっている。では、ブランドは何で選ばれ、信頼されるのか。
ヒントは「画面の外」にある。本稿で取り上げる登山アプリ「YAMAP」の取り組みは、AI 時代のブランド信頼を支える3つのポイントに整理できる。
- 顧客理解を「画面の外」――山という現場と、ユーザーの周囲にいる人々まで広げること。
- 人が実際に歩いて残した「生きた情報」を、次のユーザーの判断を支える資産に育てること。
- パーパスを事業判断の軸に据え、市場が成り立つ前提条件そのものを守ること。
【1】が土台となり、その上に、AIが容易には代替できない【2】【3】の価値が立つ。以下、YAMAPを題材にこの3点を読み解いていきたい。
YAMAPのコアは「便利さ」ではなく「安全」
YAMAPは、スマートフォンで現在地や登山ルートを確認できる登山アプリだ。ダウンロード数は570万を超え、利用者数No.1とされる(2026年6月時点)。2013年の創業以来「都市と自然をつなぐ」という考え方を掲げ、現在は「地球とつながるよろこび。」をパーパスに置く。
山は自然と接点を持てる身近な場である一方、安全と隣り合わせでもある。警察庁の統計によれば、令和7年の山岳遭難は発生件数が3,000件を超え、原因の約30%を「道迷い」が占める。自分の現在地とルートの把握は、安全の土台だ。
YAMAPのプロダクトマーケティングマネージャーである﨑村氏は、こう語る。
「YAMAPは登山情報アプリとして便利さだけで語られることもありますが、YAMAPにとって、登山に関わる人の『安全』がコアにあります。山の中で道迷いをしたり、遭難したりしないために、現在地やルートをしっかり確認できることが重要です。そこがなければとても命を預けられない。実装している機能の多くも、実はユーザーの安全に関わるものです」
現在地を確認できる登山地図、登山計画、歩いた軌跡の記録、みまもり機能やグループ位置共有、自治体への登山届提出――実装機能の多くは、山の中で迷わない、予定から遅れたときに気づいてもらう、万が一のときに手がかりを残すといった「安全」に結びついている。

ユーザーは「本人」だけではない
YAMAPが安心の対象を登山者本人だけに置いていない点も見逃せない。「みまもり機能」は登山中の位置情報や行動状況を他者が確認しやすくし、「グループ位置共有」は同行メンバーが互いの現在地を把握しやすくする。いずれも、本人だけでなく周囲の人の安心を支える接点だ。
「『みまもり機能』は、特に家族に安心してもらえるものです。実は、家族、一緒に住んでいる人は、登山者が帰って来ないときに、ユーザーの身に迫る危険に気づける人でもあります。その人に、ちゃんと何時までに帰ってくるかを伝えて共有しておくことが大事で、登山計画に対するユーザーの意識を高める契機にもなります」(﨑村氏)
「登山届の提出」は、協定を結ぶ警察や自治体とも連携し、万が一の際の捜索・救助の手がかりになる。YAMAPにとってのユーザーは、本人に限られない。登山者の安全は、家族、同行者、警察、自治体まで含めたネットワークで支えられている。山へ行く前、歩いている最中、下山後、帰りを待つ人との関係まで広げながら、登山体験の価値が設計されている。

デジタルとリアルを往復するから、顧客理解が深くなる
本人だけでなく家族や地域まで見据えたこうした設計は、なぜ可能なのか。﨑村氏の答えはシンプルだ。
「我々はデジタル企業です。だが、アウトドア企業でもある。デジタルとリアルを往来しています」
YAMAPのユーザー理解とは、山という現場で人がどう迷い、どう安心し、どう自然と向き合うのかを理解することに近い。アプリ上の行動ログだけでは捉えきれない。画面の外で人と山に向き合ってきたからこそ、登山者本人の先にいる家族や同行者、地域までもが、安心を支える対象として見えてくる。
