37億人が作る、新しいカルチャー
ゲーム文化の中にいる私たち
ゲームをする人と、しない人。その境界は、いつの間にか曖昧になっています。自分ではプレイしなくても、ゲームから生まれたドラマを観て、その音楽を聴き、キャラクターや言葉に触れている。私たちは既に、ゲームが作る文化の中で暮らしているのかもしれません。
子どもや一部の愛好家のものだったゲームは、今や37億人以上が参加する、世界最大級のエンターテインメントへと成長。2026年の世界市場規模は約2,140億ドルに達し、映画と音楽を合わせた市場を上回ります。
けれども、ブランドにとって見逃せないのは、その大きさ以上に、人々の生活の中で果たすゲームの役割の変化です。
ゲームを見る目が、変わり始めた
Havas社の調査からは、自分を「ゲーマー」と捉え、「ゲームをする人は孤独だ」というイメージに賛同しない人々の姿が見られます。特にプロシューマー層(トレンドを生み出し、社会の消費行動に影響を与える生活者グループ)になるとその傾向は顕著です。
また若い世代ほど、ゲームもスポーツや芸術と同じように、文化として評価されるべきだという意識が見られます。その広がりは、「The Last of Us」や「Fallout」といった映像作品にも表れています。ゲームは、他のメディアへ物語や世界観を送り出す側にもなってきているのです。
画面の向こうにも、人生がある
そしてゲームには、自分の行動で物語や人間関係に関われるという特徴があります。プレーヤーは仲間と協力するなかで、喜びや悔しさ、達成感が味わえ、そこで生まれる感情やつながりは、画面を閉じれば消えるとは限りません。
Netflixのドキュメンタリー「イベリン:彼が生きた証」は、そのことを鮮やかに描いています。難病を抱え、身体を自由に動かすことができなかった青年マッツ。家族は、彼が孤独な人生を送っていると思っていました。ところが死後、世界中のゲーム仲間から、次々とメッセージが届きます。
マッツは「World of Warcraft」の中で「イベリン」として駆け回り、友情や恋愛を経験し、悩む仲間を支えていました。家族の知らない場所に、彼を必要とする人々がいた。画面の向こうにも、確かな人生があったのです。
ブランドはゲームの生活圏に何を持ち込めるのか?
人々が時間を過ごし、関係を築く場所には、ブランドとの接点も生まれます。ただ、そこに人が集まっているからといって、広告が歓迎されるとは限りません。プレーヤーにとって大切なのは、ブランドの参加によって、ゲーム体験がどう豊かになるかです。
ではブランドは、どうすれば生活者からの期待に応えられるのでしょうか。本稿では事例と調査を見ながら、紐解いていきたく思います。
132年の壁に挑んだ、23歳のゲーマー
Xbox / Football Manager「The Everyday Tactician」
創設132年。一度もEFLリーグに昇格したことがないブロムリーFC。歴史の壁を越えるためにチームが迎えたのは、名将でも一流選手でもなく、「Football Manager」をプレイしてきた23歳のゲーマー、ネイサン・オウォラビでした。
ネイサンは戦術スタッフとしてチームに加わり、対戦相手の分析を担当。ゲームで培った分析力を生かし、実際の試合に向けて戦術を練りました。そしてそのシーズン、チームは昇格プレーオフを制し、クラブ史上初めてEFLリーグへの昇格を決めます。
実は、この採用はXboxが「Football Manager 2024」のプロモーションとして企画したもの。一般プレーヤーにプロの現場で働く機会をつくり、その挑戦をドキュメンタリーとして発信しました。ゲームの本格性を、一人のプレーヤーが現実に踏み出す物語として伝えたのです。
ゲームで培ったスキルが、社会で評価される
調査でも、ゲームを通じて戦略的思考や問題解決力、創造性、協調性を磨けると考える人々が見られます。またプレーヤーがゲームに求めているのも、画面の中で完結する遊びから、仕事や日常にも生かせる力を育てる「学びの場」へと広がり始めているのです。
その経験を評価しようとする意識は、eスポーツへの見方にも表れています。単なるゲームの大会ではなく、伝統的なスポーツと同じように、選手の鍛錬やパフォーマンスが評価されつつあります。
ここからうかがえるのは、ゲームでの努力や成果を、社会的に価値のあるものとして認める意識です。その実力が周囲から評価される。ゲームの文化としての広がりには、こうした認識の広がりも含まれているのでしょう。
「Football Manager」の事例の核心は、ゲーム内に埋もれた才能に現実の機会を与えた点にあります。そうした価値観の変化をいち早く見出し、プロモーションに結びつけた好事例といえるでしょう。
