マーケターと生活者は、同じ棚を見ていない
商品開発に長く携わるほど、自社ブランドは特別な存在になります。ロゴの一部が見えただけでも商品を判別でき、パッケージの小さな変更にも気づき、伝えたい特徴をすぐに読み取れます。
ところが、生活者が売場で見ている景色はまったく同じではありません。
スーパーやコンビニの棚には、基本的に同じカテゴリーの商品が、様々な価格や色合いのパッケージで所狭しと並びます。生活者はそのすべてを丁寧に読み比べているわけではありません。夕食の献立を考えている、次の予定を気にしている、子どもから目を離せない──。買い物以外のことにも注意を向けながら、限られた時間で判断しています。
このとき最初の分岐になるのは、「良い商品か」ではなく「存在に気づくか」です。気づいた商品のうち、今の目的に関係がありそうなものだけが候補に残り、手に取られ、比較されます。企業側から見れば棚に確かに存在する商品でも、生活者の認識の中には存在していないことがあるのです。
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商品の価値は、あるだけでは売上になりません。生活者に気づかれ、自分に関係のあるものとして理解され、他の選択肢ではなくその商品を選ぶ理由が生まれて初めて購入につながります。「何を伝えるか」だけでなく、「その情報に触れてもらえるか」「一目で自分向けだとわかるか」を考える必要があります。
商品に気づいた生活者が「買いたい」と思うには?
商品に気づいてもらった次に必要なのは、その商品を「買いたい」と感じてもらうことです。もちろん商品の機能やスペックも重要ですが、生活者はそれだけで購入を決めるわけではありません。
たとえば無糖のお茶を選ぶ場面でも、理由は「お茶が好きだから」だけではありません。食事の味を邪魔したくない、仕事の合間に気分を切り替えたい、甘い飲み物を控えたい、いつもの選択なら失敗しない。表面的には同じ1本の購入でも、その行動が担っている役割は生活者ごと、場面ごとに異なります。
この「行動の裏にある本当の理由」を捉え、それに応える価値を提示することで、本人の中でも曖昧だった欲求が、明確なニーズとして意識されることがあります。強い商品コンセプトが生活者の共感を呼ぶのは、機能をたくさん説明したときではありません。「これは自分のための商品だ」「こんな場面で役に立ちそうだ」と、生活の変化を具体的に想像できたときです。
そのため、コンセプトは単なる調査刺激ではなく、「どんな人に、どのような価値を届けるか」を示す設計図だと捉えられます。生活者の共感を生むインサイト、その人の生活に生まれる変化としてのベネフィット、そしてその価値が実現できると納得させる理由。この筋が通っていれば、コミュニケーション、パッケージ、製品体験にも一貫性が生まれます。反対に、特徴を盛り込みすぎて市場では伝えきれないコンセプトは、調査の中では評価されても、実際の売場では同じ反応を得られない可能性があります。
では、生活者が商品を買いたいと思ったあと、実際の購入までに何が起きるのでしょうか。大きくは「意識のハードル」「物理的なハードル」「選択のハードル」の3つに分けて考えられます。
