「らしさ」を尽くした事例に出会いたい──審査員からのメッセージ
──2回目の開催となる「BEST OF MARKETING AWARD 2027」では、AI活用の事例も数多く応募されると予想しています。審査員として、どのような事例に出会いたいですか。
「自分たちらしさ」という観点でお客様に向き合い、顧客接点でのAI利用について議論を尽くした企業のケースが見たいですね。AIの活用に明確な正解がない中で、唯一頼りにできるのは自分たちの存在意義です。
目先の「これができると儲かりそう」だけでは正直、心が動きません。売上のインパクトよりも「自分たちらしさを実現できたかどうか」にこだわる企業が、信頼される時代になるはずです。そこに覚えがある方には、ぜひ応募してほしい。本質的な挑戦を待っています。
慶應義塾大学総合政策学部卒。アドテクノロジーの黎明期より外資テックベンダーやデジタルエージェンシーにてデータドリブンのマーケティング活動推進を支援。のち楽天データ部門にて商品開発を経験後、2018年にBICP DATA代表取締役に就任。企業と生活者をつなぐ適切なデータ活用の実現を目指し、プライバシー/AIガバナンス支援・DX伴走支援を展開するほか、アカデミアと連携したAIガバナンス・AI倫理の研修プログラムやAI原則の策定を手掛ける。2022年よりアイティメディア株式会社社外取締役。2024年よりMyDataJapanステアリングコミッティーメンバー。
──「自社らしさが反映されている」と自信を持って言えるAI活用事例、ということですね。その「らしさ」とAI活用の関係を、順番にうかがっていきます。
AI倫理は「結果として」ブランドづくりにつながる
──渡邉さんは「自社のAI活用のスタンスを定めることが、結果として自社のブランドを形づくる」とおっしゃっています。なぜAIの活用基準が、企業のブランドと結びつくのでしょうか。
実はこのテーマ、考えれば考えるほど難しいな、と思います(笑)。「AI倫理」と聞くと「自分と関係ないことだな」と感じるマーケターの方も多いと思いますが、お客様との信頼関係を構築することをミッションに持つマーケターにこそ持ってほしい視点でもあります。ですから、ブランドづくりと関係があるテーマだということをまずはお伝えしたいです。
そもそも「信頼」は、作るものではなく、あとからついてくる結果です。つまり、AI倫理はブランド価値向上に「結果として」つながるだけで、ブランドのためにAI倫理に取り組むのは本末転倒だと考えます。
そのため、正確に言うなら「自社のAI倫理をきちんと定めることが、結果的にブランド毀損を防ぐ」ということになりそうです。たとえば、先日成立した改正個人情報保護法では、統計の作成やAI学習といった目的に限れば、本人の同意なくデータを使えるようになりました。
ただし、提供するサービスによっては、同意のない利用に不快感を覚えるユーザーもいるはずです。法律が許すようになったとしても、ユーザーのことを考えてそこで一歩踏みとどまれるかが、その企業の定めるAI倫理のラインだと思うんです。

──法律ではなく、自社のラインで判断する。では、そのライン自体はどこから導けばいいのでしょうか。
AI倫理は「企業理念の再解釈」だと思っています。
古くから続く日本企業の理念には、社会にとって良き行いが自動的に含まれていることが多いです。ただし、たとえば近江商人の「三方よし」に当てはめてみると、「売り手」がLLMベンダー、「買い手」がユーザー、「世間」が社会となり、LLMに学習されるデータを生み出しているクリエイターは含まれていません。
昔ながらの関係と、テクノロジーで複雑になったいまの関係とのギャップを踏まえた上で、AI時代ならではのステークホルダーにまで意識を配り、「どう振る舞うと企業理念を体現することになるのか」を考え直す必要がありそうです。
企業理念といっても、実は層があるんですよね。どんな世界をつくりたいかという「ビジョン」、自分たちの存在意義は何かという「ミッション」、そしてどう行動するかという「バリュー(価値基準)」。このうち、お客様にブランドを印象づける瞬間をつくっているのは、バリューに沿った1つひとつの行動なんです。
そしてこれまで、その行動を担っていたのは従業員でした。しかしAI時代には、AIが従業員に代わってお客様に接する場面も増えていく。そうなると、そのAIが“何のために、どんな価値基準で”振る舞うのかを決めておくことが、ブランドづくりにおいて重要になるんです。だからAI倫理は、企業理念の再解釈から始まるものだと思っています。
逆に倫理を手段にすると「エシックス・ウォッシング」になりかねません。2019年にGoogleがつくったAI倫理委員会が、人選をめぐって社内外からの強い反対を受け、わずか10日あまりで解散した例が有名ですね。
──渡邉さんはマーケティング領域におけるテクノロジーの変遷を見つめてこられました。テクノロジー発達によって、倫理を捉え直すべきタイミングは、過去にもあったのでしょうか。
過去にもなかったわけではありません。「データはいったい誰のものなのか」と、プライバシーのあり方が問われるようになった時期は、大きな転機でした。ただ、ここまでの大転換は初めてだと感じています。
過去との違いは、やろうと思えばあらゆることが実現できてしまうこと。ただ、「できる」ことと「やるべき」ことは違います。技術は選択肢を増やしてくれても、どこで線を引くべきかは教えてくれない。だからこそ、その線引き──「何をやるか」ではなく「何をやらないか」を、自分たちで徹底的に決めておく必要があるのだと考えます。
とくに、お金になりそうなアイデアを見つけると、人は取り組むべき理由を探し始めてしまう。事前に、自社らしいAI倫理指針を定めておくことが、結果的に信頼につながる意思決定を可能にするのではないでしょうか。
挑戦を恐れない、すべてのマーケターへ。
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