夏の風物詩「甲子園界隈」の熱量に迫る
こんにちは、 スパイスボックス クリエイティブプランナーの森田優衣です。3年ほど前から界隈を巻き込んだコミュニケーションプランニングに注力しており、食品や美容系、消費財など幅広いクライアント様と界隈向け施策を実施してきました。
生活者起点で形成される「〇〇界隈」には、大きな熱量が集まっています。その熱量に正しく寄り添えれば、ブランドの強力な味方になってくれる可能性のある集団なのです。界隈独自の文化や文脈、SNS上に表出する言動の奥にあるインサイトを理解することは、ブランドとターゲットの距離を近づけるコミュニケーションを実現するための第一歩となります。
「界隈」という言葉やマーケティング定義が生まれる前から、生活者起点の熱量に支えられて、長い歴史や文化が形成されている事象も多く存在しています。今回注目する「甲子園界隈」も、その1つと言えるでしょう。本稿で扱う「甲子園」とは、毎年夏休みの時期に開催され、今年で第108回大会を迎える「全国高等学校野球選手権大会」のことを指します。現在(8月17日時点)も連日熱戦が繰り広げられており、懸命にプレーする高校球児の姿に思わず胸が熱くなる方も多いのではないでしょうか。
マスメディアでも特集が組まれ、夏の風物詩として長い歴史をもつ界隈ですが、本稿はコロナ禍を経て、SNSネイティブな時代を映す「令和の甲子園」がテーマです。「令和の甲子園」を支える界隈の人々はどんなことに共感し、SNS上でどのような振る舞いを見せているのか。SNS投稿データをもとに、そのインサイトを読み解きます。
「甲子園界隈」を形成する多様な生活者セグメント
ひとことで甲子園界隈と言っても、熱量の高い野球ファンからいわゆる「お茶の間」のマス層まで、様々な生活者を内包しているのが特徴です。
界隈の中核を担っているのが【高校野球ファン】。このセグメントは、甲子園への出場切符をかけた地方大会が始まる、毎年7月上旬からSNS上での情報発信が盛んになっていき、大会期間中は界隈全体に向けて影響力のあるオピニオンリーダーのようなアカウントも観測されています。
このセグメントの投稿傾向として大きく分けると、「(1)試合内容の実況およびサマリー」「(2)著名な監督や特定の選手のプレー・言動への称賛」「(3)現地観戦する人々へのお役立ち情報(周辺駐車場やカフェの共有)」などが見受けられます。(1)(3)は想像しやすいかと思います。しかし、意外にも界隈内で共感や注目が集まるのが(2)で、界隈内で著名な監督が試合後のインタビューで語った言葉が大きなエンゲージメント(SNS上のいいね/リポスト/リプライなどユーザーのリアクション総数)を獲得することがあります。
その多くが、単なる野球の戦術論に留まらず、組織作りや人生観にも通じる深い言葉です。たとえば、「社会でチームとして働くうえで大切な姿勢」や「人生の踏ん張りどころにおける心の持ちよう」など、社会人にも通じるテーマがそこにはあります。
【高校野球ファン】は、高校野球を通して、自分自身に重ね合わせられる言葉を心のどこかで探している。そういった界隈のインサイトが表れているのではないかと考察しています。
また【高校野球ファン】の中には、球児のその後のキャリアとも関わりが深い【プロ野球ファン】も多く含まれており、未来のスター選手発掘を楽しむ側面があります。【高校野球ファン】によって毎年X(旧Twitter)のトレンドに上がりやすいのが「スーパー1年生」というワードです。
これは、1年生ながらベンチ入りを果たした逸材が、チームのピンチを救うような好プレーを出した際に盛り上がるワードです。現在プロ野球で活躍する選手の中にも、かつて「スーパー1年生」としてメディアやSNSで注目されていたケースが多いため、界隈の熱量がひときわ高まる瞬間となっています。
こうした野球ファンだけでなく、強い共同体意識に根付いた【母校・地域】コミュニティや、関心度はライトながらも母数の大きい【青春追体験層】によって支えられている点も、甲子園界隈の特徴です。特に優勝した【母校・地域】コミュニティは、SNS上でも大きな存在感があります。
昨年大会では、沖縄尚学が優勝した際に地元企業の「オリオンビール」公式アカウントが「感動をありがとう!」といった趣旨の投稿を行い、県の内外から約11万ものエンゲージメントを獲得しました。
学校によって地域との関連度は様々ですが、生活者に根付く「地元へのノスタルジー」が、優勝高校の地元地域をまるごと祝福するようなムーブメントを生み出していると言えるでしょう。
さらに甲子園の応援文化に関連して、【吹奏楽界隈】や【 チアリーディング界隈】といった他界隈からの越境層も見受けられます。たとえば、朝日新聞出版より毎年刊行されているガイドブック『甲子園』では、長らくチアリーダーの表紙が採用されてきました。このように、甲子園界隈は多くの生活者セグメントを内包し、それぞれの共感インサイトを界隈全体の熱量として昇華してきたのです。
