AIによるアウトプットが「筋の良いものか」を判断できるか
MZ:2017年に出版された『「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』(宣伝会議)がロングセラーとなり多くの方に活用されてきた中で、2025年に新版『「欲しい」の本質 人を動かす無自覚な欲求「インサイト」の見つけ方』としてアップデートされるに至った背景をお聞かせください。
大松:組織・会社・事業として再現性を持たせたいという思いで、二十数年間インサイトリサーチに取り組んできました。社員やクライアントとともにPDCAを回し続け、その2017年時点での蓄積を整理したのが旧版の『「欲しい」の本質』です。
さらに期間を経て、考え方や手法も大きく進化しています。ボロボロになるまで書籍を読み込み使ってくれている読者や、マーケ部に着任した全員が読むべき教本として指定している企業さんもいらっしゃいますので、「最新の考え方をお伝えしたい」という思いから全面刷新することになりました。

MZ:近年は、リサーチ業務でのAI活用も進んでいます。AIに顧客インサイトの抽出を指示すると「それっぽいもの」が出力されますが、こうした現状に対するお考えを聞かせてください。
大松:まず、AIを使う側のマーケターがインサイトの本質を理解している必要があります。出てきたアウトプットが「筋の良いものか」を判断できるロジックを持っていなければ、AIが出す情報を鵜呑みにしてしまうからです。
また、AIは既存のデータを学習しているため、顕在化された情報しか持ちません。顧客自身も気づいておらず言語化されていない無自覚な欲求を、AIが知ることはできないのです。
「AIペルソナ」などのリサーチ手法もありますが、定量調査結果やインタビューを合成して作る「架空の人物像」にとどまるため、n=1の人間が持つ生々しさが欠落しています。当社でも「DECOM AI」という分析エンジンを活用していますが、ネットに転がっていない、独自に収集したn=1の定性情報を数百人や数千人単位でインプットして「具体→抽象→具体」で分析する仕組みです。
独自の一次情報のインプットなしにAIが出すアウトプットだけに頼ると、アイデアの同質化が進み、新奇性が失われて市場で成功しなくなってしまいます。
インサイトを見極めるはじめの一歩は?AI時代の同質化を突破する「デコントレーニング」
MZ:マーケター自身がインサイトを見極める目を持つ必要があるということですね。最後に、今後の展望と、筋の良いインサイトを見極めるマーケターになるためのファーストステップとして取り組むべきことをうかがえますか。
大松:まず展望としては、BtoC・BtoBを問わず、多面的な顧客理解・インサイト活用の重要性が高まっています。今後はあらゆる企業において、インサイト活用が企業の競争力を左右する時代になると考えています。
そして、マーケターが踏み出すべき第一歩としておすすめしたいのが「デコントレーニング(デコンストラクション・トレーニング)」です。これは、「あのヒット商品がなぜこれほど売れているのか」といった身近な現象(具体)に対して、「未充足だったどういう欲求を充たしているのか」を抽象化して考える訓練です。
世の中のヒット事例の裏側にある人間の欲求やインサイトを抽象化して考えることで、具体から抽象化への思考力が鍛えられます。1人でもできますし、職場の同僚と休憩時間に話し合うのもおすすめです。ぜひ、日常的に取り組んで、インサイトを発掘し見極める目を鍛えてみてください。
9月9日開催 MarkeZine Day 2026 Autumnに大松氏が登壇!
「AI時代にマーケターが磨くべきインサイトの発見力と見極め方」をテーマとした17:25~18:05のセッションに、大松孝弘氏が登壇。本インタビュー内容のさらなる実践編として、AI時代に「人を動かす無自覚な欲求(インサイト)」をどう発掘し、ビジネスの勝機に変える「アイデア」を生み出すかを解説します。
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