3. Attachment(継続を生む力)――「一度きり」を「また選びたい」に変える
3つ目のドライバーが、Attachment(継続を生む力)です。これは、生活者に「また選びたい」と感じてもらう力です。「やっぱりこれがいい」「これなら間違いない」「なくなると困る」。そう感じたとき、ブランドは「一度きりの選択肢」ではなく、「自然と戻ってくる存在」に変わります。
事例:Wisła Kraków Football Club — Lucky Fan Index
Wisła Krakówは、ポーランドの名門サッカークラブです。しかしトップリーグから降格し、観客動員と収益の回復がクラブ存続に関わる状況にありました。課題は、ファンに「応援してほしい」と呼びかけることではなく、「自分が行く意味がある」と感じてもらい、スタジアムに戻る習慣を作ることでした。
そこで着目したのが、サッカーファンが持つ「自分が観に行くとチームが勝つ」という迷信です。クラブは来場データと、63試合・200以上の試合指標をAIで分析し、一人ひとりの“勝利への貢献度”をLucky Fan Indexとして可視化しました。貢献度の高いファンにはVIP席へのアップグレードを。不運なファンには“運を上げる”グッズ割引を提供しました。
結果として、平均観客数は42%増加し、リーグ最高の動員数を達成しました。単発の話題化ではなく、ファンの来場を「自分もチームの一部である」という実感に変え、クラブとの関係を深めた好事例です。
意味が生まれると、また戻りたくなる
一度の購入や利用を、どうすれば「また戻りたい」に変えられるのか。Attachment(継続を生む力)で求められるのは、戻る理由を体験のなかに作ることです。
通常の広告では、ブランドを繰り返し選んでもらうために、再接触(リターゲティング)を重ね、思い出してもらうことが重視されてきました。しかし、Lucky Fan Indexの事例では、再観戦を直接呼びかけるのではなく、試合に足を運ぶこと自体の意味を変えたのです。ファンはチームの勝利に関わる一員として位置づけられたことで、自ら再来場する理由が生まれ、クラブへの信頼や愛着も深まっていったのです。
このように、Attachmentが高いブランドほど、信頼やブランド評価資産と強く連動し、顧客数や購入検討も平均を上回ることがわかっています。ブランドとの関係に自分なりの意味が生まれると、選択は習慣になり、習慣はやがて信頼や愛着へ変わっていきます。
欲望を育てる仕組み――「届ける」から「意味を作る」へ
ここまで、欲望を生み出す3つのドライバーを見てきました。「欲望」とは、単にブランドを知っている、好意を持っている、買ってもよいと思っている状態ではありません。「気になる」「自分に合う」「また選びたい」と感じ、実際の選択や継続につながる力です。
3つの力は、組み合わさることで強くなる
そして、この3つのドライバーは、それぞれが別々に働くというよりも、互いに重なり合いながら、ブランドへの気持ちを育てていきます。どれか1つだけを高めるのではなく、3つの力をバランスよく育てていくことが大切になります。実際に、すべてを前年より高めたブランドは、平均の2.4倍の成長ポテンシャルを示しています。
メディアを、「届ける手段」から「意味を生む接点」へ
では、これら3つの力をメディア施策に置き換えると、従来のアプローチと何が変わるのでしょうか。3つの事例から見えてきた違いを整理すると、次のようになります。
事例に共通するのは、広告の量を増やすのではなく、接点の役割そのものを広げていることです。関心を生み、価値観を伝え、また戻りたくなる理由を作る。大切なのは、どれだけ多く届けたかだけではなく、その接点が生活者の気持ちや行動に何を残すかを考えることです。
認知や好意を育て、購入につなげることは、これからも欠かせません。その上で、そこからもう一歩踏み込み、「気になる」「自分に合う」「また選びたい」と思える理由まで作ることが、ブランドへの「欲望」を育てます。そうした接点の積み重ねが、ブランドを「知られている存在」から「選ばれ続ける存在」へ近づけていくのではないでしょうか。
