野菜摂取の壁となる「義務感」の払拭
1925年のマヨネーズ発売以来、生野菜を食べる習慣のなかった日本の食卓にサラダ文化を定着させてきたキユーピーだが、現在の市場環境には大きな壁が立ちはだかっている。それが「野菜の摂取量の低迷」と「サラダ喫食数の減少」という根深い課題だ。
厚生労働省が健康日本21などで掲げる1日350グラムという野菜摂取目標に対し、日本人の摂取量は20年以上にわたり未達の状態が続いている。2024年(令和6年)の国民健康・栄養調査によれば、現状の摂取量は約258グラムにとどまり、1日あたり約100グラムもの不足が生じているのが実態だ。特に若年層における不足傾向は深刻さを増している。
この背景には、簡便性を求めた主食偏重の食事が拡大していることや、昨今の異常気象や物流費高騰に伴う野菜価格の上昇があり、食卓からサラダが排除されやすい環境が形成されている。しかし、課題の根本は消費者心理にある。生活者の意識調査では、約7割にあたる73.9%が「野菜摂取を意識している」と回答する一方で、「足りていると思う」と答えた割合はわずか35.3%にすぎない。「意識はしているが十分に摂れていない」という大きなギャップが存在しているのだ。
ここでキユーピーが着目したインサイトは、「従来型の啓蒙アプローチの限界」である。「健康のために野菜を食べましょう」という正論が、もはや消費者の自発的な行動変容を促す有効なメッセージとして機能していない。その厳しい現実にあえて正面から向き合う。
キユーピー上席執行役員であり、同社グループ全体で取り組む「サラダファースト」プロジェクトのプロジェクトリーダーを務める北川岳史氏は、「当社はこれまで日本のサラダ文化を創造してきたという強い思いがある一方で、生活者の皆様に『健康のためにもっと野菜を食べましょう』という義務感を少し背負わせてしまったかなと感じることがある」と指摘する。健康を目的化した義務感が心理的なハードルとなり、結果としてサラダを遠ざけているという逆説的な構造への課題意識が、今回の新戦略の出発点となっている。
1992年キユーピー株式会社入社。経営推進本部経営企画部長、同本部副本部長、本部長を経て、2023年執行役員、2024年上席執行役員 業務用市場統括に就任。2025年10月から、グループサラダファーストプロジェクト プロジェクトリーダーを兼任
業界共創で促す行動変容 2つのアプローチを用意
義務感や罪悪感からの脱却を目指す解決策として提示された新戦略が「with ベジタブル」である。これは、自身が大好きな主食や主菜といったメニューと野菜を一緒に楽しむことで、無理なく自然に野菜を摂取する新しい食のライフスタイルを定着させる試みだ。コンセプトを具現化し、小売店頭や外食チェーンのメニューに落とし込むための具体策として、キユーピーは2つのアプローチを用意している。
第一のアプローチが、「好きなものとの一体化」である。唐揚げや雑穀米など、消費者が好む食べ応えのある食材と野菜を1つの皿(ボウルなど)にまとめ、ボリューム感とヘルシーさを両立させた満足感の高いスタイルを提案する。第二のアプローチが、「好きなものにプラス1品」である。カレーやハンバーグといったいつものメイン料理の傍らに彩り豊かな野菜を添えることで、心理的負担なく日常的に続けられるスタイルを目指すものだ。
これらのアプローチを生活空間に浸透させるためには、食品メーカー単独の施策では限界がある。そのためキユーピーは、小売店、外食産業、さらには自治体をも巻き込んだ共創エコシステムの構築を進めている。
第一のアプローチの事例としては、ベーカリーチェーンを展開するアンデルセンとの共同開発が挙げられる。「野菜を楽しむイギリスパンサンド」など、パンと野菜を一体化させた惣菜パンを店頭展開し、新たな顧客体験(CX)を創出した。
また、第二の「プラス1品」のアプローチでは、ファミリーレストランを運営するデニーズジャパンにおいて、メイン料理に好みのサラダや野菜メニューを組み合わせてセットにできる「おこのみチョイス」が始動している。
さらに、福島市とは「納豆の日」に合わせて、千切りキャベツと納豆を深煎りごまドレッシングで和えるだけの簡便メニュー「ごまっ豆サラダ」を官民連携で企画するなど、チャネル横断的な展開が加速している。北川氏は「すべてのチャネルを循環させ、皆様とともに『好きなものを野菜と食べる』新しい当たり前を創出してまいります」と語り、業界の垣根を越えた座組によって消費者の行動変容を促していく姿勢を鮮明にした。
一方、今回の発表の目玉は「with ベジタブル」戦略に基づく具体的な商品開発だ。キユーピーは日本よりも先行する米国のサラダ市場トレンドを分析し、自社のソリューションに還元している。
