視察から発売まで約4ヵ月。アジャイルな商品開発
今回発表された2つのサラダボウルは、2026年9月18日より東京駅などのエキナカ惣菜店舗「Deli comer(デリコメール)」にて期間限定で販売される。一方、公式ECサイト「Qummy(キユーミー)」では、スパイスやハーブを活かした新感覚のコールスローを発売。カット野菜とドレッシングがセットになっていて和えるだけでできる、「プラス1品」のコンセプトに適した商品として売り出す。
ここで注目すべきは、5月の米国視察からわずか4ヵ月程度で、商品開発から店頭販売までを実現した圧倒的なスピード感と、それを可能にした組織体制である。
発表会後の個別取材において、キユーピーグループが敷いている組織横断的なプロジェクト推進の裏側が明かされた。今回の新商品開発の実務は、スーパーや百貨店向けに惣菜やパックサラダを供給するグループ企業・デリア食品の、自社店舗「Deli comer」の開発メンバーが担っている。
特筆すべきは、キユーピー本体のみならず、デリア食品をはじめとする関連各社のメンバーが「サラダファースト」のプロジェクトチームという横断組織に参画している点だ。実際の米国視察にもデリア食品の担当者が同行し、現地の最新トレンドを肌で吸収している。北川氏は「アメリカの現地でトレンドをしっかり経験してきました。それを自らの言葉で落とし込んで今回商品にしているので、だいぶ思いが詰まった商品になっています」と語り、現場の熱量が直接商品化に結びついているプロセスを評価した。
通常、大企業における新商品開発では、市場規模の予測や採算性など、定量的な基準をクリアするための厳格な稟議プロセスが存在し、開発期間の長期化を招きやすい。しかし今回のプロジェクトにおいては、米国で得たインサイトをいち早く生活者に体験してもらうことを最優先とした。北川氏主導のもと、まさに特例的なスピード感で承認を進行したという。
まずは自社がコントロール可能な店舗(Deli comer)という小回りの利くテスト環境に商品を投入し、消費者の実際の購買行動やリピート率といったデータを蓄積しながら商品を洗練させていく。ITの業界では当然のものとなったアジャイル開発的な今回の取り組みは、トレンドの移り変わりが激しい食品・小売業界において大企業がいかにスピード感を持って市場のニーズに応えていくかという課題に対し、1つの有効なケースを示している。
社会的価値の追求から生まれる経済的価値
キユーピーが推進する「with ベジタブル」戦略は、短期的な売上拡大を狙った単発のプロモーション施策ではない。これは同グループが2030年に向けて定めた経営方針の根幹に位置づけられる、中長期的なビジョンに基づくものである。日本のサラダ市場全体が構造的なダウントレンドにある中、企業としてどのように成長軌道を描き直すのか。
北川氏は今後の目標について、第一にサステナビリティ(社会性)目標として掲げている「サラダの喫食機会の向上」を実現し、ダウントレンドを上向きに転換させることを挙げる。その上で、「社会貢献をしっかりさせていただくことが、将来的には当社のメインであるマヨネーズやドレッシングの売上・利益といった経済的価値にもつながると思っています。社会性と経済性を一緒に進めていくのがこれからの方向性です」と明言した。
社会課題の解決(社会的価値の創出)を通じて自社の利益(経済的価値)を生み出すCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)の経営哲学が、戦略の根底に流れている。まずは2028年までを期間とする現在の中期経営計画の中で、喫食機会のダウントレンドを反転させることが直近の試金石となる。
この巨大な目標の達成に向けた最大のカギは、業界の枠を超えた水平連携である。個別取材における外食産業へのサポートに関する問いに対し、北川氏は、すでにニチレイフーズなど他カテゴリーの食品メーカーと共同で外食事業者向けの提案会を実施していることを明かした。「唐揚げ×タルタルソース」のように、メーカー同士が組んで完成されたメニューパッケージを提案することで、人手不足に悩む厨房現場の一次加工やオペレーションの負荷を軽減しながら、同時に野菜の提供機会を創出する狙いがある。
北川氏は戦略発表会の結びに、「これからの時代、企業が提供すべきものは単なる商品ではなく、食を通じた豊かなライフスタイルだと考えています」と力強く語った。消費者の行動変容を促し、縮小する市場を再び活性化させるためには、食品メーカー、小売事業者、外食産業が個別の利益追求を越え、顧客のウェルビーイング向上という共通の目的の下で連帯していくことが不可欠である。「with ベジタブル」戦略は、その連帯を呼びかけるキユーピーからの業界全体に対するメッセージといえる。
