「既存の文化」を否定しないことが近道に
徳田:組織マネジメントの視点で、橋口さんが意識されたことはありますか?
橋口:私は支店長の経験が長かったので、現場の感覚は十分理解しているつもりでした。それでも、音声認識AIを導入した際には、現場から「文字起こしを見て自分たちを監視するのだろう」という不安の声が上がりました。現場としては、顧客との会話の内容をすべて記録されることで、クレームの犯人探しやミスの指摘のために使われるのでは、という懸念があったんですね。ここは現場との対話が不足していたと反省しています。作って終わりではなく、対話を重ねてネックを解消していく細かい営みこそがAI定着の鍵になります。
規模の大きい伝統的企業において、文化そのものを無理に変えようとすると強い抵抗に遭います。その場合、それを逆手にとって、既存の文化を最大限尊重しながらAI活用を進めていくことで、スムーズになるのではないでしょうか。

橋口:当社の場合、金融機関ならではのリスクに対する慎重さやルール重視の姿勢といった文化が、お客様の信頼を支えてきたという実績があります。この文化を崩すことなく、小さく試して納得感を醸成しながら変革を進めることが、遠回りに見えて実は最短ルートだと考えています。

徳田:AIの導入にあたっては「これまでの文化ではダメ」という雰囲気が広がりそうなところ、既存の文化を否定するのではなく、うまく活用して相乗効果を図っていくというアプローチは非常に参考になりますね。
AIツールは目的ではなく、顧客価値向上のための手段
徳田:最後に、本日のセッションの総括を、ひと言ずついただけますか。

小林:これまで現場を第一に社内の風土醸成を進めてきましたが、最終的に大切にすべきなのは当社の空調機を使っていただいているお客様です。今後のAI活用も、社内だけでなくお客様の目線に立っているかという観点を忘れずに、推進していきたいと思います。
橋口:AIを導入することは決して目的ではありません。我々は銀行ですので、真の目的はお客様の企業価値をいかにして上げるかという点にあります。その目標達成のためにAIをどう使うか。AI導入を単なるITツールの変革にとどめず、組織と企業を変革するための手段として捉え、今後も取り組みを進めていきます。
徳田:世の中にAIツールは溢れていますが、単にツールを選ぶだけでなく、それを使って企業の底力をどう上げるのか、現場への浸透や文化の醸成をどう進めるのかにフォーカスすることが不可欠だと再認識しました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
