組織を“つなぐ”役割──「価値実感」を生み出す富士通流CROの本質
庭山(シンフォニーマーケティング):「CRO(Chief Revenue Officer:最高収益責任者)」という役職は、米国でもここ5〜10年ほどで急速に認知が広まったポジションです。本日は『CROの流儀 人・サービス・売り方を変え提供価値と収益を最大化する』(日経BP)の著者であり、富士通でCROを務める大西さんにお話をうかがいます。
庭山:米国でCROが誕生した背景には、巨大化した組織の「サイロ化」があります。マーケティング、セールス、カスタマーサクセスがそれぞれ独立した予算やデータを抱え込み、分断が発生してしまう。そのサイロを壊し、収益責任を一元化する存在としてCROが置かれるようになったわけですが、大西さんが実践されてきた富士通でのCROは、その米国流とは少し毛色が異なるように感じられます。実際のところはいかがでしたか?
大西(富士通):庭山さんがおっしゃった「サイロ化」という課題自体は、富士通もまったく同じでした。富士通ほどの巨大な組織になると、サイロの中にさらに小さなサイロが存在するような状態です。しかも、組織改編を行うたびに、また新しいサイロが生まれてしまう。私のアプローチとしては、サイロ化した組織同士を「つなぐ」という感覚に近かったですね。
庭山:米国の事例を見ると、CROは「売上数字に直接責任を持つセールスVP(営業責任者)」出身者が主流で、いわば“営業の親分”のイメージで捉えられがちです。大西さんは、このCROの役割についてどう捉えていますか?
大西:モノの仕様や価値があらかじめ明確な製品販売であれば、セールス色が強いCROが適合するかもしれません。しかし、ITシステムやコンサルティングは、成果が目に見えにくい分野です。強引な営業だけだと、お客様から「不透明で怪しい」と思われかねません。
私たちが目指すべきは、導入後に「本当にお願いしてよかった」と提供価値を実感していただくことです。収益はその結果として後からついてくるもの。だからこそ、単なる営業力だけでなく、事業ポートフォリオ全体を捉え、どうすれば顧客のビジネス価値を高められるか、その全体像を設計できる人物こそが求められると感じています。
庭山:大西さんの著書『CROの流儀』で提示されている「CROの6つのアジェンダ」ですが、この体系的なフレームワークはどのように形作られていったのでしょうか?
大西:2023年に富士通でCROに就任した際、CFOやCTOは既にいましたが、CRO自体が新設ポストだったため、最初は周りも自分自身も手探りのスタートでした。
正直、最初お客様ご挨拶の際には、わかりやすく伝えるため冗談交じりに「営業の親分」と説明したこともありましたが、富士通が「モノ」から「サービス」の会社へ変わっていく以上、お客様の事業価値を高める仕組みをデータと現場の両面から作らなければいけません。そこで、就任前から取り組んでいたグローバル一元化CRMでのパイプライン可視化をベースに、トップダウンでの組織改革や現場に踏み込んだ実践を推し進めていきました。そうしたここ数年の取り組みをまとめたものが、この変革の軌跡です。
大西:本の中では「6つのアジェンダ」として綺麗に整理していますが、その裏側は泥臭い試行錯誤の連続でした。ただ、改革の途中でグローバルの「CROラウンドテーブル」に参加し、各国のCROと議論した際、「自分たちが手探りで進めてきたアプローチは決して間違っていなかったんだ」と確信できました。
