日本企業の勝ち筋──データとハイタッチを融合させ「真のインティマシー」を築く
庭山:大西さんの著書を読んでいると、「インティマシー(Intimacy:親密性、顧客との深い信頼関係)」というキーワードが繰り返し登場します。最近、欧米のマーケティングでも「プリファレンス・マーケティング」のように、「真っ先に想起され、選ばれ続ける存在になる」という概念が改めて注目されています。
AIが台頭したからこそ、「人間にしかできない価値=真っ先に相談される信頼関係を作ること」へ原点回帰していると感じるのですが、大西さんのおっしゃるインティマシーも、この概念に通じるものでしょうか?
大西:まさに同じ概念だと思います。私が「ただゴルフや会食ばかりに行くな」と言ってきたのは、そうした表面的な付き合いで終わらせてほしくなかったからです。会食に行っても最初の15分だけ仕事の話をして、あとは世間話で終わってしまうような関係性では意味がありません。
私が目指したのは、お互いに腹を割って「1対1」で向き合える関係性です。「本当の課題はどこにあるのか」「自社の強みと弱みを踏まえ、どう提案すべきか」といった本質的な議論ができ、相手から真っ先に相談される存在になれるか。これこそが私の考える「インティマシー」です。

庭山:私も、それこそが本来あるべき関係構築の姿だと思います。
その上で、個人的には日本企業にはまだまだ大きな強みがあると考えています。たとえば、10年前に導入したシステムの刷新時にも当時の担当者が社内にいて、経緯や文脈を理解したまま話ができる。こうした勤続年数の長さによる「組織の記憶」や、長年の取引で蓄積された豊富なファーストパーティデータは、日本企業ならではの強力な資産です。
こうした現場の「人間力」や「アナログな強み」にデジタルを融合させ、顧客と「真のインティマシー」を築いていくこと。これこそが、これからの日本企業が勝つための大きな勝ち筋になると確信しています。

「How to 主義」を脱し、終わりのない変革を楽しむ
庭山:最後に、今まさに自社の組織変革や営業・マーケティング改革に苦しんでいる日本企業の皆さんへ、メッセージをお願いできますか?
大西:私が富士通での変革に取り組んできた7年間で一番強く感じたのは、「日本のお客様、そして日本の会社は本当に素晴らしい」ということです。そうした方々と深く関わっている私たち富士通には、本当に重大な責任があるのだと日々感じています。
その上で、今まさに日本企業の組織変革に取り組んでいるリーダーの皆さんに一番伝えたいのは、「変革は3年程度では絶対に終わらない」ということです。
富士通で7年走り続けて、ようやく「1.0」が終わり、次の「2.0」へ向かう段階に入ったという感覚です。いや、もしかしたらこれまでの7年は単なるプロローグで、ここからが本当の本番かもしれません。組織変革に終わりはない。だからこそ、変化し続けること自体を腹を括って楽しむ姿勢が大切だと思います。
もう一つ重要なのは、「How to 主義」からの脱却です。私たちはどうしても「手法」や「フレームワーク」を好み、ツールの導入や会議の進め方といった“やり方”に気を取られがちです。しかし、「会議をどう効率化するか」「AIでどう自動化するか」といった議論を重ねても、本質的な構造改革は進みません。
形ばかりの会議を繰り返すのではなく、泥臭く現場に飛び込み、データを見つめ、具体的な案件で成功事例を作る。社内に眠る「パンドラの箱」を恐れずに開け、本質的な課題に向き合い続けること。それこそが、企業が真の変革を遂げる唯一の道だと信じています。
庭山:大変深く、勇気をもらえるお話をありがとうございました。本日のセッションが、皆様のBtoB変革のヒントになれば幸いです。
