開発は1ヵ月でリリース/アジャイルアプローチが生む現場志向のAI
――システム開発においても、「一旦1ヵ月で最初のプロトタイプを現場に出す」という方針を重視されていたと伺いました。通常は数ヵ月かかる開発をアジャイルに近い形で進められたのはなぜですか。
AIツールは、最初から完璧なものを目指すよりも「実際に現場に触ってもらって改善する時間」を取ることが何より重要だからです。そのため、今回は1ヵ月から1ヵ月半でリリースするという方針のもと、開発パートナーであるAlgomaticとも密に連携しながらスピーディーに実装を進めました。
当社のシステム部門やインフラ部門も連携して動ける体制が整っていたため、社内の環境構築を待つ間はパートナー側の環境で一部の開発を進めるなど、非常に柔軟な対応ができました。また、高度なエンジニアスキルがなくても後々のチューニングができるような技術選定を事前に行っていたことも、スピード開発の要因です。

――短期的なROI(投資利益率)を求めるのではなく、長期的な目線でスタートできたことも、プロジェクトが歪まずに進んだ要因でしょうか。
はい。今回はトップダウンで漠然と「AIを使え」と言われたわけではなく、「店長AIを作る」と解決すべきテーマが明確に決まっていたため、迷わずに課題解決に集中できました。「3ヵ月でROIを出せ」といった短期的なプレッシャーではなく、長期的に店舗業務を良くしていくという目線でスタートできたことは大きかったです。
また、当社は過去にも様々なツールを店舗に導入してきた歴史があり、「最初は慣れなくて大変でも、使っていくうちに結果的に便利になる」という経験値が組織に蓄積されていました。こうした現場のリテラシーや土壌があったことも、新しいAIツールの導入をスムーズに後押ししてくれました。
AIが接客時間を創出する「次世代店舗オペレーション」=AIと人の役割分担
――AIが情報を整理することで、店長は「探す作業」から「考える業務」へとシフトしつつあります。店頭の接客や顧客体験には今後どのような変化が期待できますか。
まだ2つのエージェントを導入したばかりですので、全体としての明確な効果測定はこれからですが、個々の作業時間は確実に短縮できています。店長が複数システムを横断しながら情報を探し、判断する必要があった時間が削られ、AIが必要情報を整理・提示してくれるようになりました。これを地道に積み上げていけば、必ず「接客時間の創出」という本質的な価値につながっていくと確信しています。
また、業務時間の削減だけでなく、売上分析の品質向上といった「業務品質そのものの向上」も重視しています。経験やスキルによるレベルの差に関わらず、新任の店長でも最初の段階から一定のクオリティの分析が保たれるようになった効果は、非常に大きいと感じています。
――AIと人が役割分担する次世代の店舗オペレーションを考えたとき、どのような姿を描いていますか。
目指すところは、「定型的な作業や情報の収集・分析はAIが行い、人はそこから判断したり、意思決定をするところだけを担う」という明確な役割分担です。
店舗スタッフは、お店の顔です。お客様と接客することによってスタッフ自身の個性が発揮され、生き生きと働いてもらえることを我々は最も大事にしています。バックヤードの作業を徹底的にAIに任せることで、店舗スタッフが本来の魅力を発揮できる時間をいかに増やしていけるかが最大のポイントです。リアル店舗でインフルエンサーのように活躍しているスタッフもたくさんいますので、彼らがその強みを十分に活かせる環境にしていくことが、我々の描く未来の姿です。
――店舗だけでなく、本部側の業務などへのAI展開の予定はありますか。
はい、既に本部側への展開も始めています。具体的には、各店舗へ商品を配分したり在庫補充を行ったりする「ディストリビューター」の業務にエージェントを導入し、自動化を進めています。
今後はEC担当など他の職種にも拡大し、職種ごとに業務フローを見直していく予定です。小売業には情報集約型の業務が多く存在しますので、単なる点の効率化ではなく、上流から下流まで一気通貫したオペレーション基盤へと発展させていきたいと考えています。
――最後に、小売業界でAI活用や店舗DXに悩む同業他社の皆様へ向けて、メッセージをお願いします。
一番お伝えしたいのは、「AI活用やDXそのものを目的にしてしまうと、現場で使われないものになりがちだ」ということです。「自分たちは何を実現したいのか」「そのために何が必要なのか」という課題解決の思考からスタートすることが一番大事だと思います。その結果として、解決策がAIでなくてもまったく構わないのです。
そして、もしAIを活用するのであれば、完璧を求めずにクイックに現場からのフィードバックをもらって改善していくことが大事です。AIは比較的クイックにプロトタイプを作ることができます。「完璧でなくても、まずは現場に触ってもらい、早い段階でフィードバックをもらいながら改善を重ねていく」。この泥臭いアプローチこそが、本当に現場で役立つ変革を生み出すと確信しています。

