AIの予測と人の見立てにズレがあるから経営者は考えられる
川上:AIが予測するようになれば、人間がフォーキャストを行う必要はなくなるのでしょうか。

古森:いえ、フォーキャストは非常に重要です。数字だけならAIでも出せますが、フォーキャストには哲学があるんですよ。数字の中に気持ちが入っています。
川上:単なる将来売上の予測ではなく「営業が顧客をどう見ているか」の意思表示でもあると。
古森:購買プロセスには、データだけではわからない不確実性があります。フォーキャストは予測というより、ゲームプランとリスクを考えるものなんです。
川上:セールスフォースでは、AIのフォーキャストと人間のフォーキャストをどう使い分けていたんですか?
古森:グローバルではAIが先にフォーキャストを出し、その後に人間が出していました。そして、両者を比較するんです。「なぜこんなにギャップがあるの?」と。
川上:どちらが正しいかを判定するのではなく「なぜ違うのか」を見るということですか?
古森:そうです。そこに営業しか知らない情報が出てくるんですよ。「クライアントのこの担当者が今はいないから意思決定が遅れそう」という情報や、マーケットの情報など。だから、両者のギャップについてディスカッションすることが大事なんです。
川上:AIと人の見立ての差分が、まだシステムにない経営情報になるわけですね。では、AI、現場、セールスストラテジーの見立てが違ったとき、経営者は最後にどう束ねるのでしょうか。
古森:経営者は最後に「何を優先するのか」を決めなければなりません。判断を間違うこともあります。それでも決めて、動く。それが経営者です。サッカーのPKでも、球を蹴る方向はベンチのメンバーではなく蹴る人が決めますよね。様々な情報はあっても、全部をシステム化することはできません。
川上:セールスストラテジーは経営判断を代替する存在ではなく、判断の質を上げる役割で、最後に責任を持って決めるのは経営者なんですね。
黒衣よりも前に出る「イネーブラー」たれ
川上:古森さんは現在スタートアップの支援もされていますが、セールスフォースのやり方を参考にしたいスタートアップは多いと思います。一方で、スタートアップとセールスフォースでは規模も市場も異なります。ベストプラクティスを取り入れるとき、何に気を付ければ良いのでしょうか。
古森:SaaSのスタートアップにとって、セールスフォースは親や神様のような存在になっています(笑)。成功した方法を学ぶのはいいんです。でも、100%コピーする必要はありません。

川上:型をコピーするのではなく「なぜその型になったのか」を学ぶことが大事だと。
古森:背景を理解して、自分たちに合う形で取り入れたほうがいいと思います。セールスストラテジーという組織を自社にそのままつくる必要もありません。それよりも、前を見て戦略を立てることのほうが重要です。
川上:「前を見る」とは、未来を見るということでしょうか。
古森:まずはお客様ですよ。漠然と未来を見るわけではありません。データはAIが取ってくれますから、人間はもっとお客様を見たほうがいい。過去のデータだけを見て経営することは、バックミラーだけを見て運転するようなものです。時速200キロで高速道路を走りながら、バックミラーだけを見ていたら事故を起こします。後ろも横も前も見ないと。
川上:第1回で和代さんは、セールスストラテジーを歌舞伎の「黒衣(くろご)」と表現していました。古森さんのお話を聞いていると、印象が少し違いそうですね。
古森:黒衣というのもわかります。でも、もっと前に出たほうがいい。私は「イネーブラー」だと思います。組織が売上を伸ばし、お客様の満足度を上げられる状態をつくる存在です。
川上:黒衣からイネーブラーへ。分析結果を届けるのではなく、経営と現場の間で「成長できる状態」をつくるのがセールスストラテジーの仕事だと理解しました。古森さんが最初に「任せっきりでした」とおっしゃったのは、そこまで担ってくれる相手だったことの証左かもしれませんね。
