「知られているようで知られていない」Zoomの素顔
永井氏は大学卒業後、日本マイクロソフトに入社。サポートサービスのデリバリーやエンタープライズセールスを経験したのち、2022年にZVC JAPAN(Zoom)へ営業として入社した。最前線のプレーヤーとして実績を積み、2024年より営業部長としてマネジメント業務に従事している。Zoomのユーザーコミュニティ運営にも携わりながら、2児の母として働く永井氏は、「キャリアにおける諦めをなくしたい」という思いから「Work Happy」を掲げて活動していると自己紹介した。
セッション冒頭、永井氏は会場に向けて「Zoomミーティング以外のZoomのソリューションを知っている方はいますか」と問いかけた。
「Zoomを知っていますかと聞くと皆さん手が挙がるのに、ミーティング以外を知っている方は途端に少なくなってしまいます。私たちは、最も知られていて、最も知られていない会社だと痛感しています」(永井氏)
実際には、Zoomは会議だけでなく、電話やメール、カレンダー、ハイブリッドワーク向けの会議室ソリューション、座席予約システム、AIが音声で自動応対するAIボット、カスタマーサポートを支えるAIコンタクトセンターまでを手がける、幅広いプラットフォーマーだ。
さらに永井氏は、最も難易度が高いとされるAIベンチマーク「Humanity's Last Exam(HLE)」において、GPT-5やClaudeを上回るスコアをZoomのAIが記録した事例(※)を紹介。
※参考:Zoom AI、Humanity’s Last Exam(HLE)ベンチマークで新たな最先端ベンチマークを達成
「私たちのAIはフェデレーテッドと呼ばれる仕組みで、質問の内容に応じてGPT-5やGemini、Claude、独自モデルなど複数のAIエンジンを組み合わせ、その時々で最適な答えを導き出します。モデル選定やトークン消費への不安を手放して、質の良い回答を得ていただけるのが特徴です」と説明した。
90%の会話が消えている──企業に眠る“最大の資産”
「今日お伝えしたいのはAIに何ができるかという話ではなく、AIが力を発揮するためのデータ設計についてです」(永井氏)
永井氏はまず会場に「先週、お客様と何回会話をしましたか」と問いかけた。営業であれば数十回、展示会やブースでの立ち話まで含めればさらに膨大な数の接点が生まれているはずだ。しかし、そうした会話の90%は翌日には記憶から消えてしまっているという。
「CRMを使って記録している企業も多いと思いますが、それでも残るのは結論だけ。人手で入力する以上、内容が本当に正確かどうかも追えなくなってしまうのが、今のデータ集約の難しさです」(永井氏)
その背景には、コミュニケーションチャネルの分断がある。固定電話や携帯電話では録音もデータ化もできない。Web会議は録画できても、増え続ける対面商談は記録が残らない。手書きのメモや個人の議事録アプリは属人化し、セキュリティリスクも伴う。
「電話・オンライン会議・対面会議・メールがあちこちに散らばり、データが断絶されてしまっている。これにより、収益に至るまでのプロセスの可視性がゼロという状態が生まれています」と永井氏は指摘する。どんな会話を経て受注に至ったのか、本質的な要因を特定することが、これまでの仕組みでは不可能だったというわけだ。
だからこそ永井氏は、「会話とは、最も過小評価されている企業資産である」と訴える。「リアルは顧客との会話の中にしかない。売上の推移やイベントの問い合わせ数といった数字だけでは、AIが分析できる質にも、それが実際のビジネスに活きる可能性にも限界がある」というのが永井氏の考えだ。
あらゆる会話を一箇所に集める「貯める設計」
この課題に対してZoomが提供するのが、会話の発生地点をすべてZoom側でカバーする仕組みだ。クラウド電話サービス「Zoom Phone」を使えば、すべての通話が文字起こしされ、録音を含めて無制限・無期限に保管・分析される。Zoomミーティングはもちろん、Microsoft TeamsやGoogleの会議も分析対象としてデータベースに自動集約されるという。
さらに対面商談についても、スマートフォンのZoomアプリを起動するだけで、話者分離を含めオンライン会議と同水準の構造化された議事録が残せる機能がある。
電話・対面・オンラインの間を埋めるメールのやり取りもZoom側でデータ化できるため、「顧客とのすべてのコミュニケーションが一言一句、企業の資産として蓄積されていく」(永井氏)。これが、AI活用の土台となる「貯める設計」だ。
会話データを組織の共通言語にする「使う設計」
しかし、データを貯めるだけでは意味がない。永井氏が続けて語ったのが、蓄積した会話データを部門ごとにどう使うかという「使う設計」である。
営業においては、属人化しがちな「勝ちパターン」を会話データから分析し、型として組織に浸透させることが求められる。マーケティングであれば、営業が日々顧客から拾っている競合トレンドや反響、興味関心といった“生の声”を、次の施策やコンテンツに反映できているかが問われる。カスタマーサクセスの場合は、契約後の顧客との関係の中で解約の予兆をつかみ、経緯を踏まえたスムーズなコミュニケーションができているかが焦点になる。
「マーケティング、カスタマーサクセス、営業という全ての組織が同じ顧客との対話データを見て、それを共通言語にすることで収益を上げていく。これが本質的なAIによる売上向上の取り組み、レベニューオペレーション(RevOps)です」(永井氏)
この「貯める」と「使う」を同時に実現するソリューションとして紹介されたのが「Zoom Revenue Accelerator(ZRA)」だ。顧客との会話を自動で録音・分析し、Salesforceなどの主要CRMへの書き込みまで自動化できるという。画面上には会話ごとの要約(カスタマイズ可能)と文字起こしが表示され、その内容に対して生成AIで自由に質問できる。
商談の中でいわゆる「BANT」情報が聞けているかといった“勝ちパターン”のチェックも自動採点され、「なぜこのスコアなのか」を裏付ける文字起こし箇所まで根拠として提示される仕組みだ。永井氏自身もマネージャーとして、スコアの低い商談から優先的に確認し、フィードバックのサイクルを回していると明かした。
営業向けの画面では、CRMと連携し、1つの商談に紐づく147回もの会話(メール・電話・オンライン商談・対面商談)を横断的に分析できる例が示された。「この経緯の中で何を聞けたか、取りこぼしているリスクはないか」を自然言語で質問でき、得られた情報をもとにCRMが自動更新されるという。
マーケティング向けには、競合の名前がどれだけ会話の中で言及されているかをグラフで可視化する機能も紹介された。トレンドをいち早く察知し、対抗施策の先手を打つことができるという。
カスタマーサクセス向けには、解約に関連する単語が会話に出た際に即座にマネジメントへ通知する仕組みも用意されている。「なぜなら、リアルは顧客との会話の中にあるからです」と永井氏は繰り返した。
受注率2倍、商談回数40%減 パートナープロップの実践
導入事例として紹介されたのが、パートナープロップだ。マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの全部門が同じ顧客会話データを見る体制を構築し、収益プロセスを可視化するRevOpsを実現した結果、受注率が2倍になり、的確な打ち手が打てるようになったことで商談回数自体は40%減少したという。
「商談回数が減った分、新しい商談に時間を割ける。しかもその商談も受注率は2倍のままです。人手が足りない中でどうビジネスを大きくしていくかを考えたとき、会話データがいかに重要かがわかる事例です」(永井氏)
セッションの終盤では、作業を代行するAI「ZoomMate」も紹介された。永井氏自身、今回の登壇資料作成にもZoomMateを活用したという。過去の顧客との会話から蓄積されたエッセンスをもとに、社内の製品情報と照らし合わせながら資料化してくれるといい、「収益を上げるだけでなく、作業を完了させて生産性を上げてくれる」と述べた。
あわせて、パワーポイントやスプレッドシートに相当する資料作成機能も紹介され、会話データの蓄積を起点とした一連の業務がZoomの中で完結できることが強調された。

データを預け、共に収益プロセスを変える
セッションの最後、永井氏はレベニューオペレーションの構築を真剣に考えるユーザー同士が学び合うコミュニティ「RevOpsラボ」を紹介し、参加を呼びかけた。また「今後AIでどう打ち手を考えようか悩んでいる方がいれば、ぜひZoomにデータを信頼して預けていただきたい」と締めくくった。
会議・電話・対面・メールといったあらゆるチャネルに散らばる顧客との会話を、1つの資産として貯め、部門を横断する共通言語として使う。AI活用の成果を左右するのは、AIそのものの性能以上に、その手前にあるデータ設計にあるという永井氏のメッセージは、生成AI導入を検討する多くのBtoB企業にとって示唆に富むものとなった。

