SaaS市場の成熟やAIの進展により、カスタマーサクセス(CS)は単なる導入支援から、顧客の業務設計や意思決定に踏み込む存在へと変化しています。とくに不動産業界のように複雑な業務構造を持つ領域では、CSの関与が業界全体の生産性や商習慣にまで影響を与え始めています。本連載では、イタンジ CS Ops部長の岡田昌樹氏が、AI時代における「CSの進化」を考察。第2回となる今回は、第1回で触れた「攻めのCS」という理想を、いかにして誰でも実行可能な「仕組み」へと落とし込むのか。その核となる「CSスキルマップ」について紹介します。
CSの定性的な職能を、定量的に解剖する
私がイタンジに入社して今年で7年になります。7年前は、イタンジのプロダクトは市場でほとんど認知されていませんでした。「イタンジって何?」と言われていた中でDXの力を説いて回った黎明期から、現在の「ITANDI BB」を主軸としたプラットフォームへと進化し不動産業界のインフラに発展していく過程を、私は最前線で見続けてきました。
その中で、プレイヤーからマネジメントへと立場が変わったときに、CSスキルの「可視化」と「標準化」という、ふたつの大きな壁にぶつかりました。

組織が10名程度のころまでは、マネージャーである私が1on1を行ったり、顧客とのミーティングに同席したりすることで、メンバーそれぞれの実力や課題を特定しフィードバックができていました。しかし、組織が拡大し数十名規模になると、物理的に不可能になってきます。
対応策としては、チームごとにリーダーを決め、リーダーからの報告に頼ることになるのですが、そこにはどうしてもリーダーごとの「主観」や「評価基準の厳しさ」の差というノイズが混入します。同じ行動をとっても、あるリーダーは高評価をつけるが、別のリーダーだと別の評価が下されるような不確実性は、プロフェッショナルなCS組織を目指すうえであってはならないことです。
とくに弊社は、熱意のある若手メンバーが多い組織です。彼らにとって必要なのは、曖昧な精神論ではなく、「今、自分はどこに立っていて、次にどの山に登ればいいのか」を示す精密な地図でした。
そのような状況で試行錯誤の末に辿り着いたのが、「5テーマ・13カテゴリ・約300項目」に及ぶスキルマップです。
CSの専門性を支える「3つのコアスキル」を言語化
CSという職種のスキルは、「コミュニケーション」や「ホスピタリティ」といった言葉で表現されることが多い印象があります。しかし、そのような曖昧な評価基準では組織としての再現性は生まれません。
また、バーティカルSaaS、とくに不動産という巨大かつ複雑なドメインを扱う我々にとって、CSは単なる「いい人」であってはなりません。我々が求めるのは、次の3つの要素を高い次元で統合できる人材です。
- 営業力:顧客の顕在課題だけではなく潜在課題も特定し、行動変容を促す合意形成力
- プロダクトとITスキル:自社プロダクトの知識だけでなく、SaaSの仕様、データ構造を理解し、顧客のシステム仕様も把握したうえでシステムを最適化する力
- 業界知識:不動産実務、宅建業法、商習慣を顧客と同水準で理解する力
上記要素を5テーマ・13カテゴリに分解し、そのカテゴリごとに各等級(ジュニアメンバー、ミドルメンバー、シニアメンバー、リーダー、マネージャーなどのランク)において求められる内容を言語化し、約300項目に分けました。
ここまで細かい項目を設けている理由は、目標設定の解像度を可能な限り高めるためです。前述のとおり弊社は若手メンバーが多く、ITや不動産の業界経験者ではなくても、誰が見てもわかる内容で構成することを意識しています。
新卒メンバーは四半期ごとに、各項目が大きく欠けることがないように目標設定をします。中途メンバーは入社のタイミングで、不動産業界、IT業界の経験なども加味し、これまでのスキルがどの程度通用するのかを測ったうえで、不足分を埋められるような目標設定を行います。
メールマガジンに登録無料すると、続きをお読みいただけます
この記事は参考になりましたか?
- AI時代のCS進化論連載記事一覧
-
- AI時代に、なぜ「泥臭いCS」が求められるのか? 業界インフラを担う覚悟と、拓かれた多様な...
- CSの“曖昧な評価”を脱却する──300項目のスキルマップで実現する「組織の再現性」
- AIは「正解」を出し、CSは「現場」を動かす──不動産DXの最前線で求められる「業務再構築...
- この記事の著者
-
イタンジ株式会社 CS Ops 部長 岡田 昌樹(オカダ マサキ)
SIerにて新規事業開発に従事し、営業・開発・カスタマーサクセスまで幅広く経験。SaaSとDXの可能性に魅力を感じイタンジへ参画。同社の主力事業である賃貸募集支援事業において、CS組織立ち上げから体制構築を牽引し、エンタープライズ領域を主導。現在は約40名規模のメンバーを率い、セールス及びサポートチームとも連携を強...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
