SaaS市場の成熟やAIの進展により、カスタマーサクセス(CS)は単なる導入支援から、顧客の業務設計や意思決定に踏み込む存在へと変化しています。とくに不動産業界のように複雑な業務構造を持つ領域では、CSの関与が業界全体の生産性や商習慣にまで影響を与え始めています。本連載では、イタンジ CS Ops部長の岡田昌樹氏が、AI時代における「CSの進化」を考察。第3回となる今回は、VSaaS(バーティカルSaaS)のCSが「業界のインフラ」を担うことの真意、そしてその先に広がる多様なキャリアパスの可能性について掘り下げます。
VSaaSのCSが持つ「業界のインフラを背負う覚悟」
なぜVSaaSのCSには、これほどまでに高いプロ意識とタフさを求められるのか。その答えは極めてシンプルです。私たちが提供しているのは、単なる便利なITツールではなく、業界のインフラを背負っていくサービスそのものだからです。
想像してください。たとえば不動産業界において、Web申込や電子契約のシステムが停止したとします。その瞬間、引越しを控えたユーザー、売上を追う仲介担当者、審査結果を待つオーナーなど、数万人規模の人々の経済活動に直接的な影響が及びます。
とくに部屋探しをしているエンドユーザーにとって、引越しは人生の転機です。我々のサービスが、個人の「生活」や「人生」に直結する。この責任の重大さゆえに、CSには極めて高いプロ意識が要求されるのです。この重圧こそが、「ミスが許されないという覚悟」を形づくり、同時に「自分たちが業界、そして社会を動かしている」という、ほかでは得られない大きな手応えへとつながっています。
アナログの呪縛を解き、顧客の「3年後のあるべき姿」を描く

前項で述べた状況とは裏腹に、我々が向き合う不動産業界は、数十年変わることのなかった巨大なレガシー産業でもあります。現場レベルではいまだに「紙の方が早い」「ITは難しくて現場が混乱する」という根強い抵抗感、いわば「アナログの呪縛」が存在します。
ここで、単に“人がいい”だけのCSであっては、業界の進化は止まってしまいます。顧客の顔色をうかがい、「御社がやりたい方法に合わせますよ」と迎合するのは、一見ホスピタリティに見えて、本質的にはCSとしての職務放棄に等しいのではないかと考えています。顧客の「今」の要望に応えるだけでは、真のDXは成し遂げられないのです。
CSに求められるのは、「嫌われる勇気」を持って本質を突き、顧客と議論することです。 私は、メンバーに対し、顧客に対してこう言い切る覚悟を求めます。
「そのやり方では、DXは絶対に成功しません。本気で会社を変えたいのなら、今までの成功体験を捨て、このプロセスを廃止すべきです」
これは非常に勇気がいる一言です。場合によっては、顧客との関係値が悪化したり、クレームにつながったりするリスクもあります。しかし、その痛みを共に乗り越え、システムが現場に浸透した先に、「あのとき、厳しく言ってくれて本当に助かった」という言葉を言っていただけた瞬間、CSは真の変革パートナーとなれるのです。
これは不動産業界に限った話ではありません。VSaaSのCSにおけるゴールは、単に目先の顧客の期待に応えることではなく、「顧客の期待を超える」ことです。 顧客が「今やりたいこと」は、往々にして過去の延長線上に留まりがちです。しかし、我々が見るべきなのは、3年後、5年後にあるべき未来の姿です。顧客自身もまだ見ぬビジョンを提示し、ともに現実へと変えていく。それこそが、VSaaSにおけるCSの真髄だと考えます。
顧客の期待を超えるためには、前回の連載で触れた「300項目のスキルマップ」が不可欠な武器となります。これらをコツコツと積み上げ、他社では代替できない高度な専門性が背景にあるからこそ、我々の言葉には重みが宿ります。だからこそ、顧客は我々を対等な「ビジネスパートナー」として信頼してくださるのです。
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イタンジ株式会社 CS Ops 部長 岡田 昌樹(オカダ マサキ)
SIerにて新規事業開発に従事し、営業・開発・カスタマーサクセスまで幅広く経験。SaaSとDXの可能性に魅力を感じイタンジへ参画。同社の主力事業である賃貸募集支援事業において、CS組織立ち上げから体制構築を牽引し、エンタープライズ領域を主導。現在は約40名規模のメンバーを率い、セールス及びサポートチームとも連携を強...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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