機能訴求の罠。伝わらない「1秒で自立する」の価値
菊地(マクアケ):本日はよろしくお願いいたします。山口さんたちが開発されたエコバッグ「ORIBA」は、現在凄まじい勢いで売上を伸ばしていますね。
「Makuake STORE 楽天市場店」が4月の楽天ショップ・オブ・ザ・マンスのアウトドア・レジャー部門に選ばれたのですが、これは出品していただいている「ORIBA」のお陰によるところも大きく、私たちも大変感謝しています。
ここに至るまでには多くの挑戦と苦悩があったと伺いました。まずはブランドの成り立ちと、最初に直面した一般販売での課題についてお聞かせいただけますか。

山口(オリガミ):よろしくお願いいたします。「ORIBA」は2020年に企画がスタートし、レジ袋有料化のタイミングに合わせて2021年に商品化したエコバッグのブランドです。
主婦を中心としたメンバーでゼロから物づくりに挑んだのですが、当時エコバッグはすでに市場に競合商品が溢れており、私たちは圧倒的な後発でした。そこで「同じような物を作っても絶対に勝てない」と考え、形や構造を工夫して開発したのが「1秒で自立するエコバッグ」でした。
2021年に実施した「Makuake」での初回プロジェクトは応援購入総額が400万円を超え、非常に大きな可能性を感じていました。しかし、その後の一般販売では本当に結果が出ませんでした。
当時は「Makuake」以外の自社ECなどにおける数字の作り方が全くわからず、暗中模索の状態が続いていたのです。サポーターから「大きいサイズが欲しい」と言われて焦って開発した第2弾のLサイズバッグは、納得のいくクオリティに達していないままリリースしてしまい、数字は集まったものの、強い後悔が残る結果となりました。
そこから2年半ほど、次の展開をどうすべきか本当に苦しむ時期が続きました。自社サイトで一般販売を継続していましたが、2023年の年商はわずか350万円ほどで、月の売上が30万円しかないような状態でした。充分な人件費を捻出することも厳しい状況が続き、同年末には創業メンバーが3人も辞めてしまいました。アイデアも尽き、「もうこれ以上はできない、撤退しようか」というブランド存続の危機にまで追い込まれていたのです。
菊地:「Makuake」で一定の手応えがあっても、その後の一般販売の市場で埋もれてしまうケースは少なくありません。当時は何が原因だったと分析されていますか。
山口:今振り返ると、完全に「機能訴求」の罠に陥っていました。「1秒で自立する」という言葉は耳馴染みが良いのですが、生活者からすると「具体的に自分のどんな課題を解決してくれるのか」「生活がどう変わるのか」というベネフィットが見えにくかったのです。わざわざ細かく説明しなければ、生活者が日常で使うイメージにまでたどり着けないという「伝わりの悪さ」が大きな壁になっていました。
海外展開の失敗と母親の言葉から得た「利用シーン」への転換
菊地:そこから、どのようにして現在の急成長へとつながるブレイクスルーを迎えたのでしょうか。
山口:メンバーが辞めて後がなくなった私たちは、2024年に入り「もう1回だけ本気でリブランディングをして、それでもダメなら撤退しよう」と残った3人で声を掛け合いました。そこからは気持ちが大きく変わり、Lサイズの改良へ一気に集中し、自分たちで手縫いをして検証を重ねました。同時に、現状を打破するために2つの大きな挑戦を決めたのです。1つは「海外展開」、もう1つが「コンセプトの抜本的な見直し」です。
海外展開については、米国のクラウドファンディング「Kickstarter」を活用し、海外向けに「寿司専用のエコバッグ」としてリリースしました。「人生を変えるぞ」と意気込んで挑んだのですが、蓋を開けてみたら最終的な売上は25万円ほど。人生が変わるどころか、絶望を感じる結果となりました。何かに特化しなければ勝てないと考えたものの、1本目の「寿司特化」は大コケしてしまい、戦略が間違っていたのかと一瞬不安がよぎりました。
しかし、もう1つの挑戦である「コンセプトの見直し」が、私たちの運命を大きく変えることになります。ある日、私の母親が「いつも行くスーパーが突然セルフレジに変わった。本当に不便だから、もうあのスーパーに行くのをやめようかな」と言い出したのです。たまたまその場面に遭遇したのですが、すごい衝撃を受けました。セルフレジに変わったという理由だけで、生活者はスーパーに行くのをやめてしまうのかと。
同時に「もしかしたら、世の中には同じようなストレスや不満を感じている生活者がたくさんいるのではないか」と思ったのです。私たちの商品は、セルフレジの台に置いたときに抜群に袋詰めがしやすい仕様でした。そこで、それまでの「1秒で自立する」という機能軸の看板を完全に捨て、「セルフレジ専用のエコバッグ」という利用シーン軸へとコンセプトを刷新しました。
菊地:機能そのものは変えず、生活者が日常で直面している「具体的なストレスの解消」へと見せ方をチューニングしたのですね。
山口:その通りです。2024年の夏、この新コンセプトを引っ提げて「Makuake」で再びプロジェクトを実施しました。開始前の「もうすぐ開始」ページを公開した瞬間から、サポーターの反応は今までと明らかに違いました。「通知を受け取る(お気に入り)」のハートマークの付き方が尋常ではなく、更新するたびに何百人も増えていく状態でした。
そして蓋を開けたら、応援購入総額が凄まじく伸び、最終的に約1,700万円を達成したのです。機能訴求から、生活者の日常の課題感と結びついたシーン訴求へと切り替えたことで、商品の中身はほとんど変えていないにもかかわらず、生活者へ届く熱量が劇的に変わった大きな転換点となりました。
