VSaaSの強みは「顧客業務の深さ」
——本日はよろしくお願いいたします。まずは両社が展開されている事業と、VSaaS(※)としての特徴についてお聞かせください。
※VSaaS(Vertical SaaS):特定の業界や業種に特化して提供されるSaaSのこと。業務フローに深く沿った機能構成が特徴。これに対しHSaaS(Horizontal SaaS)は、業界を問わず人事や会計など特定の業務機能に特化して汎用的に提供されるSaaSを指す。
植松(イタンジ):当社は、賃貸管理会社や仲介会社向けに、物件検索から内見予約、入居申し込み、契約、さらには入居後の管理や退去に至るまで、賃貸業務の一連の流れをワンストップで一元化するシステムを提供しています。不動産業界は長らく紙やFAXが主流で、例えば仲介会社は「この物件、本当に空いていますか?」と管理会社に逐一電話で確認するなど、非常にアナログなやりとりが行われていました。私たちはそこへ、リアルタイムな物件情報を不動産業社間で確認・連動できるプラットフォームを提供し、業界全体の業務効率化を推進してきました。
不動産業界は、情報を保持する「管理」と、部屋を案内する「仲介」の連携が欠かせません。これまではそれぞれ個別のプロダクトとして提供していましたが、今後はそれらをよりシームレスに統合し、業界全体の情報流通をさらに滑らかにしていくフェーズに入っています。
中川(カケハシ):当社は調剤薬局向けの業務システムを提供しています。超高齢化社会である日本の医療現場に向き合い、多くの患者さんに関わる医療インフラの一端を担う存在として事業を展開してきました。
薬局の業務は非常に多岐にわたります。患者さんの投薬記録を残す「薬歴管理」から、調剤報酬を計算・請求する「レセコン(レセプトコンピュータ)」、店舗のPOSレジや在庫発注、さらには患者さん向けのアプリや本部管理システムに至るまで、現場で発生するほぼすべての業務フローをカバーするプロダクト群を展開しています。
最近はM&Aなども通じてソリューションの幅をさらに拡張しており、既存のプロダクト群と融合させながら、薬局全体の業務をより統合的に刷新していく取り組みを進めているところです。
——HSaaS(Horizontal SaaS)と比べた際、VSaaSならではの面白さや強みはどこにあると感じていますか?
中川:特定の業界にフォーカスしているからこそ、「圧倒的に深い課題解決」ができる点です。顧客の業務に深く根を張っているため、そこから関連する周辺業務へと「横」にソリューションを展開しやすい特徴があります。一度深い信頼を得られれば、顧客に入り込んで事業をどんどん拡張していける。これはHSaaSとは異なる、VSaaS最大の面白みですね。
植松:HSaaSは全体最適を目指すため、個別最適や日本特有の商習慣へのアジャストが難しくなるケースがあります。一方、VSaaSは業界ごとの泥臭い業務フローを深く理解し、どこまでサポートできるかがポイントです。業界の「あるべき姿」をこちらから提示し、業務フローそのものを一緒に再構築していくところに価値があります。
単なる「使い方支援」から「全社トランスフォーメーション」へ
——顧客の業務フローに入り込むとなると、「CSに求められる役割」も一般的なイメージとは異なってきそうですね。
中川:汎用的なツールだと、CSのゴールは極端な話「操作方法を説明して使ってもらう」ことになりがちです。一方でVSaaSにおけるCSの本質は「オペレーションの根幹を変え、顧客の会社の動かし方そのものをデザインすること」にあります。
いわば、顧客企業の「全社トランスフォーメーション・プロジェクトのリーダー」として動くのがVSaaSのCSです。プロダクトやツールは、その変革を起こすための「きっかけ」であり「武器」に過ぎません。
植松:その通りです。だからこそイタンジでは、単にプロダクトの説明や課題解決をするソリューション型のアプローチにとどまらず、顧客自身も気づいていない「あるべき姿」をこちらから提案する「チャレンジャー・セールス」の概念を営業やCSに取り入れています。自分たちのトークを録音してAIで解析・検定を行うなど、教育もアップデートしています。
プロダクトは目的ではなく手段。顧客をあるべき姿へ導き、一緒に歩んでいく伴走者になることが、VSaaSにおけるCSの醍醐味だと感じています。
