ネスレが実践する、認知から購買への一気通貫戦略
ファミリーマートの事例が示すように、認知から興味関心への引き上げは重要だが、より購買に直結する施策を求めるブランドも多い。ネスレ日本では、TikTokの活用フェーズがプラットフォームの成長とともに大きく変化してきたという。同社飲料事業本部 コールドコーヒービジネス部長の村岡慎太郎氏によれば、初期は若年層へブランドを知ってもらうための「リーチメディア」としての活用が中心だった。その後、コメントなどを通じてエンゲージメントを高める段階を経て、現在では購入率やROIをKPIに設定し、認知獲得から購買に至るまでを一気通貫でカバーするフルファネルメディアとしてTikTokを活用している。
(写真中央右)クリエイター 「伊吹とよへ」(@ibukitoyohedayo)/株式会社QREATION取締役の伊吹氏
(写真右)「伊吹とよへ」 よへ氏
(写真左)TikTok for Business Japan Global Business Solutions Senior Unit Lead 統括部長 西木 隆行氏
その象徴的な事例が、同社が展開する新製品「ネスカフェ クーラー」のキャンペーンだ。同製品はフルーツが香る新感覚のスティックコーヒー。普段コーヒーを飲まない層や抵抗感を持つエントリー層をターゲットとし、ブランドを広く認知させるプッシュ型の広告と、商品の特性を比較検討できるエンゲージメント広告を組み合わせて展開した。結果として、業界平均の1.7倍となる高い広告効果に加え、ターゲット層におけるブランドの好意度が4倍に跳ね上がるという劇的な成果をもたらした。
このキャンペーンでは、動画内で商品を知り、そのまま購入できる「TikTok Shop」の機能も効果を発揮した。村岡氏はこのシームレスな購買体験について、「テーマパークでアトラクションに乗った後、キャラクターのショップにそのまま行くように、受容性が高い状態で買うという一気通貫できる世界観がTikTokの強みだ」と評価している。ブランドへの感情が高まった瞬間に購買への導線を用意することが、獲得効率を劇的に引き上げる鍵となっている。
PR感を抑えユーザーを動かすクリエイターとの共創
ネスレ日本の成功の裏には、TikTokで活躍する人気クリエイターとの緻密なコラボレーションが存在する。しかし、企業が伝えたいメッセージをクリエイターの動画にただ詰め込めば良いというわけではない。本セッションに登壇したクリエイターの伊吹氏ととよへ氏は、近年のTikTokにおけるコンテンツの質が飛躍的に向上していると指摘する。もはや動画の冒頭(ファーストカット)のインパクトだけで視聴者を惹きつけることは難しく、その後の展開やオチに至るまでの構成力がシビアに問われる時代になっているという。
このような環境下で、広告主が陥りがちな罠が過剰なPR要素の押し付けだ。伊吹氏は企業とクリエイターのミスマッチについて、「要望が多すぎるとPR感が強くなり、いつも見ているユーザーが見なくなってしまう」と警鐘を鳴らす。そのため、動画の制作プロセスにおいては「クライアントとクリエイター同士が、どこを落とし所にするかをしっかり決めることが重要だ」と訴えている。企業が訴求したいポイントと、ユーザーが純粋に楽しんで見られるコンテンツのバランスを、直接的な対話を通じてすり合わせることが不可欠だ。
さらに、単発の広告案件として消費するのではなく、中長期的なプロジェクトとしてクリエイターと向き合うことの重要性も提示された。ネスレ日本のように、クリエイターへの信頼をベースに自由度の高い表現を許容し、ブランドの価値観を共有する「共創」の姿勢こそが、視聴者の心を動かし、最終的な購買行動を引き出す強力な原動力となる。AIによる機能の自動化が進む一方で、人間同士の丁寧なコミュニケーションに基づいたクリエイティブが、依然として最大のビジネスインパクトを生み出している点は、すべてのマーケターにとって重要な示唆と言える。
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安原 直登(編集部)(ヤスハラ ナオト)
大学卒業後、編集プロダクションに入社。サブカルチャー、趣味系を中心に、デザイン、トレーニング、ビジネスなどの広いジャンルで、実用書の企画と編集を経験。2019年、翔泳社に入社し、MarkeZine編集部に所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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