自然言語の対話で深掘りできる「データ分析エージェント」
「Rakuten AI for RMS」における直近の大きな技術的進展は、2026年4月30日に提供が開始された「データ分析エージェント」だ。これまでのAI機能が主に「手作業の代替と効率化(マイナスをゼロにする)」に主眼を置いていたのに対し、本機能は「売上を伸ばすための戦略策定(プラスを作る)」フェーズへの移行を象徴するシステムと言える。
ECの現場において、データ分析は重要でありながら、専門知識を要するため難易度が高い業務だ。従来の分析ツールでは、複数の画面を行き来して数値を拾い集める必要があったが、データ分析エージェントではチャット形式の自然言語で「今年の5月の概況を教えて」などと入力するだけで分析が完了する。AIは実際の売上数値を示すだけでなく、「アクセスは増加しているが、新規顧客の転換率が低下している」といった具体的な洞察(インサイト)までを文章化して提示する。
さらに実践的な機能として、「新規顧客とリピーターで違いはあるか?」といった、課題を深掘りするための追加質問候補をAI側からプロンプトとして提案する点が挙げられる。実際に、本機能を利用する店舗の72.9%が、AIとの対話を通じてデータをさらに深掘りしているという実証データも示されている。
専門のデータアナリストを抱えられない中小規模のEC事業者にとっても、客観的な事実に基づいた確度の高い店舗運営が可能になるため、意思決定の強いサポートツールとなるだろう。
【事例】月47時間の業務削減と商品数10倍を実現した「プチギフトmomo-fuku」
説明会では、実際にAIを業務フローに組み込んでいる小規模店舗の事例として、「プチギフトmomo-fuku(百福)」の取り組みが紹介された。同社は夫婦と少人数のスタッフで運営されている体制ながら、AIの導入により劇的な生産性向上を実現している。
最も顕著な効果が表れたのが、カスタマーサポートの領域である。ギフト商材特有の地方ごとの作法や配送に関する細かい問い合わせに対し、従来はスタッフが都度調べていたため1件につき約10分を要していたが、AIによる回答作成支援によって1〜3分に短縮された。月間で見ると、67時間かかっていた対応時間が20時間へと、実に47時間もの削減に成功している。専務取締役の木澤典子氏は、「迅速にレスポンスすることで信頼が高まり、『すぐに返信が来て安心できた』という高評価レビューが増え、新規購入への好循環が生まれている」とその定性的な効果を語る。
さらに、商品説明文の作成をAIに任せることで、これまで外注に頼っていた商品登録業務を内製化かつ高速化し、約1,000点だった登録商品数を1万点超へと10倍に拡大させた。また、画像加工AIにおいては、他社ツールを使用するとハンカチタオルの水玉の数やストライプの幅など「商品のデザイン自体」が改変されてしまう懸念があったが、楽天のAIでは実物の特徴が正確に保持されるため、安心して実務に投入できているという。
木澤氏の「AIという新しい技術を味方につけることで、自分たちらしい働き方を実現できている」という言葉は、AIの導入が単なる人員削減やコストカットの手段ではないことを証明している。人間のリソースをホスピタリティや商品企画といった「個性の創出」に集中させることこそが、次世代のEC事業者が取るべき本質的なAI戦略と言えるだろう。
