EC業界でも先進企業が「エージェンティックコマース」に注目し、その実装を将来的な目標として設定し始めている昨今。楽天グループではかねて推進してきた全社的AI化「AI-nization(エーアイナイゼーション)」によって、楽天市場の購買体験と店舗運営を根本から変えつつある。本稿では、2026年7月7日に開催された記者説明会に基づき、客単価を約17%向上させる対話型「AIコンシェルジュ」の最新機能や、新規獲得の場となりえる「ディスカバリーレコメンデーション」の進化、5万店舗の半数が活用するという運営支援ツール「Rakuten AI for RMS」の実態を解説。少人数体制で商品数を10倍に拡大した成功事例も取り上げ、EC事業者が取り組むべきAI活用の最新モデルケースに迫る。
1億IDの「楽天エコシステム」が実現するAI戦略
楽天グループが現在、全社を挙げて推進しているのが「AI-nization」と呼ばれる独自のAI活用(AI化)戦略だ。プラットフォームを提供する同社における単なる内部業務の効率化にとどまらず、サービスを利用するビジネスパートナーの売上成長と、エンドユーザーの満足度向上を両立させることが主眼に置かれている。
同社がAI領域での強力な競争優位性を発信する背景には、「楽天エコシステム(経済圏)」と呼ばれる強固な顧客基盤とデータの蓄積が存在する。
現在、同社の基盤となる楽天会員数は1億IDを超え、国内における月間アクティブユーザー数は4,588万人に達している。金融やモバイルを含む70以上のサービス群において、2つ以上のサービスを利用するユーザーの割合(クロスユース率)は77.3%と高い水準を誇り、タッチポイントはオンラインだけにとどまらず、オフラインにも1,000万以上あるという。これらが、高度なAI学習モデルを構築するためのデータリソースとしても機能しているのだ。
楽天市場編成部のジェネラルマネージャーである髙間真里氏は、「我々は、専門的な知識とトランザクションデータを楽天IDで束ねることで、ユーザーのニーズを学習し分析できる環境を持つことができた。年間3兆回超のインタラクションデータを武器として活用していきたい」と語る。
すでに楽天グループ全体で11のサービスにAIエージェントが導入されており、開発中のものが8サービス、導入検討中のものが50サービス以上と、ほぼすべての事業領域へのAI実装が急速に進められている状況だ。特に楽天市場では、AI活用により出店する事業者の個性を最大化し、楽天市場ならではの「おもてなし」をさらに広げることを目標としている。
比較や要約もチャット内で完結。進化する「AIコンシェルジュ」
楽天市場のエンドユーザー向けAI活用において、現在最も注力されている機能の1つが「楽天市場 AIコンシェルジュ」だ。これは、オフラインの実店舗で専門知識を持った店員から接客を受けるような対話型のショッピング体験を、オンライン上で再現することを目指した機能。2025年12月のリリース以降、毎週の頻度でシステムアップデートと目に見えないチューニングが繰り返されており、会話精度の継続的な向上が図られているという。
直近のアップデートでは、商品の比較検討をチャット画面上で完結させる新機能が実装された。ユーザーがAIから提案された商品を最大4つまで選択すると、内容量、価格、レビューのスコアなどの詳細データが表形式で一覧表示される。
また、個別の商品についても、わざわざ商品ページへ遷移することなく、その特徴やバリエーション、在庫状況、さらにはレビューの抜粋や獲得予定の楽天ポイントまでをAIが要約して提示する仕組みが整えられた。
このような購買プロセスの短縮化は、実際のビジネス指標としても明確に表れている。従来型のキーワード検索と比較して、検索から購入決定に至るまでの時間は約41%短縮され、平均注文金額(客単価)は約17%向上しているという。髙間氏によれば、「お買い物マラソンなどの大型イベント時には、『今すぐ必要ではないが、ポイントを稼ぐために買っておくべきものは何か』といった抽象度の高い相談が増加する」とのことであり、対話型AIがユーザーの潜在的な購買意欲を引き出し、確実なコンバージョンへとつなげる新たな接点として機能していることが見て取れる。
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安原 直登(編集部)(ヤスハラ ナオト)
大学卒業後、編集プロダクションに入社。サブカルチャー、趣味系を中心に、デザイン、トレーニング、ビジネスなどの広いジャンルで、実用書の企画と編集を経験。2019年、翔泳社に入社し、MarkeZine編集部に所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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