本記事は『法人営業 勝ちパターン大全 顧客の意思決定プロセスを完全解明して「再現性」を築く』の「はじめに」および「第1章 お客様側の世界が見えないことで陥る『4 つの迷路』」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
「決裁者に会え」だけでは足りない理由
現在、私は営業強化を支援するTORiX株式会社を経営していますが、多くの営業チームは「KPI管理」や「提案内容の改善」に散々議論を尽くします。しかし、見えない裏側にある「お客様の世界」については、なかなかつかめずに苦戦されている方が非常に多いと実感しています。
例えば、法人営業の世界においては当たり前のごとく「決裁者に会いなさい」ということが、成果を出すための原理原則として語られています。しかし一方で、疑問もよぎります。ほぼすべての営業パーソンは「決裁者に会うべし」という黄金法則のもと、決裁者に会い受注を獲得できるよう全力を尽くしているわけですが、それでもなぜうまくいかないことが多いのでしょうか。
いくら素晴らしい商品や提案があっても決裁者に会わせてもらえないのには、何らかの理由があるはずです。また、この人物こそが決裁者であるとみなし、決裁者に会えたとしても、社内における議論の結果で残念ながら選ばれないということも多々起こります。
本書の執筆にあたり、2,676人の購買経験者に対して購買の裏側に関する事情を定量調査でリサーチしたところ、最終決裁者がその案件の決定において最も大きな影響力を「実質的に」持っているというケースは16.7%でした。逆にいえば、83.3%は最終決裁者以外の人物が実質的な影響を及ぼしているということです。
では、その83.3%において、実際のところは誰が影響力を持っているのか。例えば、現場で日常的にそのサービスを使う「エンドユーザー部門」の声が決定打になるケースや、経理・法務といった管理部門が実質的な拒否権を握っているケースなど、案件の性質によって影響力の所在はまったく異なります。
「決裁権」と「実質的な影響力」は、分けて考える必要があります。営業からは見えない力学の存在が、法人営業における難しさであり面白さです。本書では、この「見えない力学」を購買プロセスの段階ごとに解き明かしていきます。
データが解き明かす「購買の真実」
以前に執筆した『無敗営業』『無敗営業 チーム戦略』(日経BP)において、私は合計929名への定量調査を実施し、「営業とお客様との間にあるズレ」が成果に与える影響を分析しました。
さらに私は、「ズレ」の中身を掘り下げるため、『営業の科学』(かんき出版)を書くにあたり営業1万76人プラスお客様1万303人(合計2万379人)への大規模な定量調査を行いました。そこでは、見積もりを見る前に決めたことのあるお客様が74.4%いて、そのうちの大半がレスポンスの早さによって心を動かされている事実が明らかになりました。
では、
- どんなことがその裏側で起こっているのか?
- なぜ見積もりを見る前に決まるのか?
- なぜレスポンスの早さが重要なのか?
───こうした問いについて、「企業の購買行動や意思決定のメカニズムへの考察をさらに深められないか?」という問題意識が湧いてきました。
私は新卒で外資系のコンサルティング会社に入り、定量調査・分析の設計をキャリアの初期においてたたき込まれました。ある企業の案件では、10万件以上に及ぶクレームの内容を分類し、業務プロセスに応じて分析してみたところ、クレームの原因は「商品の不具合やサービスの品質」の問題ではなく、「部署ごとの業務定義が最適化されていない」ことにあるという発見をしました。
データをつぶさに見て分析していくと、意外な事実が浮かび上がってきます。そして、「意外な事実」をもとに打ち立てる戦略は大きなインパクトを生み出します。
多くの人はバイアスに基づいて誤った意思決定をしてしまいがちですが、データによって思い込みが正されるだけで、行動の成果が上がるポイントが確かにあるのです。

