定性×定量の掛け算がもたらす「デイリーインサイト」
SMARTが提供する価値の本質は、現場の声を吸い上げるだけでなく、それを「定量データ」と掛け合わせて高度なインサイトへと昇華させる点にある。夜間にバックエンドで集計された店舗の前日の売上や入店数といった定量データと、スタッフが入力したデイリーサーベイの定性データをAIが掛け合わせることで、翌朝には「デイリーインサイト」の画面を通じて店長や本部へ客観的なフィードバックが届けられる。
これにより、これまで店舗から本部への一方通行で終わりがちだった日報業務が、現場の次の日のアクションに即座に活かせる「店舗のための武器」へと変貌する。ユナイテッドアローズでは、このPoCで得られた手応えを確固たるものにするため、既に次のステップへと駒を進めている。当初から構想していた週報レポートの自動生成機能の実装や、PoC期間中に現場からの要望が多かった売上や入店数を可視化するBIツールの機能追加について、現在も内製での開発を迅速に進めており、本格展開に向けた検証を行っている。
データマーケティングの観点において、売上数字が上下したという結果だけを見ていては、次の正しい打ち手は導き出せない。SMARTのような仕組みを通じて、数字の裏にある顧客のインサイトやスタッフの工夫という文脈がデータとして蓄積されていくことで、小売事業者は初めて、市場の変化に対してアジャイルに対応できるようになる。定性と定量のデータを高い次元で融合させる試みは、今後の小売DXにおける標準的なアプローチになっていくと考えられる。
「毎日がDay 1」——現場とITが一体となって進める店舗AXの本質
ユナイテッドアローズの先進的な取り組みは、これから生成AIを活用して店舗改革を進めようとするすべてのマーケターやIT担当者に対して、極めて重要な示唆を与えている。加藤氏は、このプロジェクトを通じて得た大きな学びとして、次の2つのポイントを強調した。
1つ目は、「ITスキルが高いメンバーがいなくても、内製が十分可能な時代になった」という確信だ。生成AIの劇的な進化によって、これまで非エンジニアやIT部門にとって心理的・技術的ハードルの高かったシステム開発の壁は崩壊しつつある。既存のアセットやAIツールを組み合わせることで、アイデアを即座に形にする環境は既に整っている。
そして2つ目は、「現場とITが一体になって進めていくことが鍵」であるという点だ。テクノロジーの導入において、IT部門やマーケティング部門は、ただシステムを作って現場に押し付けるだけの存在であってはならない。加藤氏はセッションの締めくくりとして、次のような強いメッセージを読者へ投げかけた。
「AIの活用が広がっていく中、IT部門というのはシステムをただ作るだけではなく、現場と伴走しながら、変化を促していくことが重要だということを改めて感じております」
ユナイテッドアローズとAWSが体現したプロジェクトの根底にあるのは、Amazonがかねて大切にしてきた言葉「It's still day one」にも表される「毎日が新しい挑戦を始める日である」という精神だ。店舗DXもとい店舗AXの本質とは、単なるツールの導入ではなく、AIという強力な相棒を介して店舗スタッフの潜在的な価値を最大化し、組織全体のコミュニケーションそのものを変革していくことにほかならない。現場の小さな気づきを企業の強みへと変える挑戦は、まさに今、始まったばかりだ。
