「営業の欲」は51パーセント出す
今井:ここまで「聞くこと」の話が続きましたが、私が最近重視しているのは、聞き方以上に「聞く順番」です。営業には「早く決裁者に会いたい」「予算を確かめたい」といった欲が必ずありますが、それをどの順番で、どれくらいの強さで出すか。ここに神が宿ると思っています。
たとえば、担当者は進めたいのに決裁者が渋っていて商談が止まっているとしましょう。営業としては、いかに早く決裁者を巻き込めるかが勝負になる。でもその欲求をそのまま質問にすると「決裁者は誰ですか」「呼んでもらえませんか」になって、進めたいと思っている担当者は気分を悪くしてしまうかもしれません。
セレブリックス営業総合研究所の所長兼セールスエバンジェリストとして、法人営業・法人購買・AIを活用した営業手法など、セールスの最前線で実践的な研究活動や情報発信を行っている。2021年に出版し、営業本のベストセラーとなった『Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術』。その待望の続編として、2026年、渾身の最新作『Sales is 2:ファクトファインディング おもしろいほど成果が出る、究極の「問いの技術」』を出版。シリーズ累計発行部数は10万部を超える。現場に即したわかりやすい解説と実践的なノウハウで、多くの営業パーソンやマネジメント層から圧倒的な支持を集めている。現在は取締役 執行役員 CMOとして、全社のマーケティング戦略を主導するとともに、新規事業開発を牽引。
今井:一方で欲を0にすると、決裁者の状況を理解せぬまま、買わない理由だけが残って商談が進む。だから営業の欲は51パーセント、抑えるほうを49パーセントくらいのバランスにする。「この購買を進めるために味方につけたい方はどういう方ですか」「その方=決裁者ですか」と聞いていけば、違和感がない。聞きたいことは同じでも、会話の流れの中に置かれているからです。質問設計よりも文脈設計のほうが重要だと思っています。
高橋:難しいバランスですよね。僕は普段、意図せず欲を抑えているのかもしれない。基本はギブを多めにする。お客様のことを教えていただくには、こちらがちゃんとお役に立てていないといけないので。それが十分にある状態をつくると、噛み合うタイミングも生まれやすくなります。
今井:お客様がやりたいことと、自社が提供できる価値が一致した瞬間ですね。そこまで来たら、欲は思い切り出していい。買いたくもないのに機能説明をされるのは嫌ですけど、「これをやらなければいけない」とお客様の中でテーマが定まった瞬間には、「いいから早く教えてくれよ」に変わることがあるじゃないですか。だから「営業は説明するな」ではなく、タイミングが悪い段階での説明は避けて、ニーズと合致したら説明しまくれ、というのが正しいと思います。
高橋:噛み合った瞬間に引いてはいけないですよね。以前、選抜営業の研修で僕がお客様役になり、受講者の方々がチーム形式で提案を競ったことがありました。どのチームにお願いするか本当に迷っていた終盤、あるチームがこう言ったんです。「今回ダメでも、また機会をいただけたらベストを尽くします」と。
控えめで、感じのいい言葉です。普段の商談ならそれでいい。ただ、そこまでいいプロセスを積み重ねてきたのなら、そこは引いてはいけない場面でした。「またの機会に」ではなく、「この提案だけは別なんです」と言い切ってほしかった。お客様が迷っているその瞬間に決め手になるのは、そこなんです。
AI時代の再現性は「型にはめること」ではない
今井:AI時代だからこそ、属人性は大事です。「あなたがここまで自信を持って提案するから、あなたを信じるよ」のひと言をもらえない営業パーソンは、AIによるレコメンドと販売に置き換えられるでしょう。
ただ、属人性を大切にすることと、営業を科学することは相反しないとも思っていて。料理でも「先に塩を振ったほうが水分が出やすい」というルールはありますよね。そういう型を押さえているからこそ、個性を活かせる。
営業の型をつくるのは同じ枠にはめることではなく、その人のパフォーマンスを常に最高スロットルまで高められるための支援だと考えています。キャラクター、担当する顧客、担当する商品に合わせて、決定率を高めるための要素は何か。全員を同じ型にはめるのではなく、1人ひとりの勝ち方を安定させる。そこは科学し続けたいですね。
高橋:マネジメント側は品質のばらつきが気になるかもしれませんけどね。だから僕は本を書くときに「出発点になりたい」と思っています。本のとおりにやるのが終着点ではない。「情報収集段階でこんな点を見られているなら、この力をつけないといけないな」と気づいて、自分なりにやってみる。そこにどう応えるかはその人の個性ですが、一定の安心感をつくるのがこういう本の役割だと思っています。
今井:場合分けにも通じる話として、昨日「営業パーソン なめられないマニュアル」というnoteを書きました。「検討します」の裏側を分析して対策を立てるのが本来の行き先ですが、もっとシンプルに言えば「舐められているから無下にされている」ケースもあるよね、と。「この営業パーソンは適当に扱っちゃダメだな」というポジションにいる適度な緊張感は大事だと思うんです。
意外とあるのが、「嫌われたくない」という防衛本能から出る口癖でなめられていくケース。いちばん多いのは、見積もりを出したときに「高い」と思われるのが怖くて、自分から「勉強できます」と言ってしまう。自分から価値を下げに行っているんです。営業が自分の提案に誇りを持てていないなら、決断する側は誇りのない提案をどう誇りを持って決断すればいいんだろう、という話になる。
顧客理解や顧客視点という言葉の甘い蜜によって、言うべきことを言えなくなっている営業も増えていると思うので、自分なりのスタンスは持ってほしくて書きました。
高橋:いい発信ですね。営業のやりがいをより高めたいという思いに、僕も強く賛同します。「営業をやっていてよかったな」と感じてもらうためにも、本は出発点なんです。この本を読んで、営業していればこういうことができますよ、と伝えたいですね。
