クリエイターの厳選を解決。合弁会社設立による強固な体制
松屋オンラインショップの卓越したクリエイター戦略の根幹には、自社単独の運用にとどまらない、外部パートナーとの強力な協業体制がある。同社は2024年11月、食品ECに特化したコンサルティング企業であるGastroduceJapan(ガストロデュース・ジャパン)とともに、合弁会社「モールハック」を設立。松屋フーズのEC構築もアップデートしながら、その知見とリソースを活かしたEC支援サービスを行ってきた。
この合弁会社の設立は、食品領域に特化したクリエイターを的確にアサインし、継続的な関係を構築するための戦略的な一手にもなっている。神田氏によれば、GastroduceJapan側とクリエイターとのパイプをそのまま活かしながら、合弁会社を通じてコミュニケーションを取る体制を構築しているという。松屋の商品だけでなく、他社の食品商材も紹介できる環境を整えることで、クリエイターにとっても継続的に活動しやすい基盤を提供しているのだ。ショート動画やTikTokというプラットフォームを注力すべき領域と見定め、合弁会社を通じて事業基盤を整備する本気度がうかがえる。
クリエイターのアサインにおいて松屋が最も重視しているのは、過去の実績に基づく「商材とのマッチング」だ。神田氏は「たとえば家電ばかり扱っている方にいきなり食品をお渡ししても、その商品の魅力を引き出す表現やアプローチが難しい場合もある」と指摘する。そのため、過去の実績から食品の販売にマッチしていると判断できるクリエイターに絞って声をかけているという。
フォロワー数だけで判断するのではなく、食品の魅力を適切に伝えられる専門性を持ったクリエイターを厳選すること。これが、紹介動画が単なる広告として敬遠されることを防ぎ、実際の購買へとつなげる高いコンバージョン率を実現する土台となっている。
売上を最大化する「クリエイター尊重」のディレクション
適切なクリエイターを選定したのち、彼らのパフォーマンスを最大化するためのディレクション手法も、松屋の成功を紐解く上で重要な要素。企業の意向を強く反映させたいという思惑と、クリエイター独自の作風を守りたいという制約のバランスをどう取るかは、多くのEC事業者が直面するビジネス課題だ。
松屋の場合、企業側の訴求ポイントは明確に伝えつつも、クリエイターの自由度を極力損なわない方針を貫いている。神田氏は「『訴求してほしい点』は出すようにはしています。ただ、クリエイターさんご自身のやり方というのもあると思うので、そこは尊重しながら」と語る。また、「何でもかんでも言ってしまうと、クリエイターの魅力が出てこなくなってしまう」と過度なブリーフィングを控えるスタンスを取っている。
企業が細かく指定した動画は、時にファンから不自然に映ることもある。クリエイター自身の演出手法を尊重することで、ファンは違和感なく動画を楽しむことができ、エンターテインメントの延長線上で自然な購買行動が発生する。「クリエイター側に寄せる」というスタンスこそが、技術的な解決だけでなく、TikTokユーザーに受け入れられるコンテンツを生み出す最大の秘訣のようだ。
松屋の事例は「レコメンドシステムの特性への適応」と「共創相手へのリスペクト」の重要性を強く示している。自社の商品を押し付けるのではなく、クリエイターという媒介者を通じてユーザーの文脈に商品を溶け込ませること。それこそが、新しい時代のEC戦略において売上を牽引するための最適解であると、今回の松屋の成果が冷静に物語っている。
