日本でNFTが広がらない理由 貯蓄を好む日本と投資に積極的なアメリカ
2021年以降、アーティストがNFT作品を発表することはもちろん、国内でさまざまなNFTプロジェクトが立ち上がっています。新潟県にある人口800人の限界集落で、電子住民票を兼ねた、NFTアート「Colored Carp」(錦鯉をシンボルにしたNFTアート)を発行したり、名刺をスマホにタッチするだけでNFTを配布できる「名刺NFT」が発表されるなど、話題を集めたものも多く生まれています。
ただNFTに関して言えば、日本の市場はまだまだ大きくありません。その理由は、日本とアメリカの「投資に対する考えかたの違い」が大きく関係しています。投資を積極的に行うアメリカではNFTを「投資の対象」と捉えているため、高額で売買されるNFT作品は常に注目の的となっています。一方、日本は金融資産を貯蓄に回し、投資を否定的に捉える人も多い。クリエイターからも「わざわざ手を出す必要はない」という意見もしばしば聞かれます。
しかし2018年からNFTに携わる中で私は、「NFTはクリエイターにとって、多くのメリットがある」と考えています。そのひとつが、「転売(二次流通)された場合にもクリエイターに収益が入る(可能性がある)」という点です。従来の世界では、なかった考えかたですよね。
クリエイターとファンの“関係性”と“役割”を変える「DAO」
SNSの世界では、クリエイターはSNS上でコンテンツを発信すればマネジメント企業がビジネスをつくる。一方ファンは、発信されたコンテンツを見たり、応援したり、グッズを買うという関係性でした。
しかしWeb3では、クリエイター、マネジメント企業、投資家、ファンの「関係性」と「役割」が変わり、今までとは異なる新たなコミュニティを形成しています。このコミュニティ組織は「DAO(Decentralized Autonomous Organizarion=分散的自律組織)」と呼ばれており、おもにDiscord上で運営されています。
DAOに集まっている人の中に、中央集権的な管理者やリーダーは存在しません。クリエイターやいちファンも平等な立場でプログラムのルールを決定しており、意思決定も暗号資産の保有数で投票するなどして行っています。
先日、堤幸彦監督、本広克行監督、佐藤祐市監督が「原作づくりから映像化および配給(配信)に関する全プロセスの一気通貫」するDAOプロジェクト「SUPER SAPIENSS」を立ち上げたとの発表がありました。このプロジェクトも、監督のいちファンが作品づくりを見守るだけでなく、パートナーとして自律的に関わることができるとされています。
単なるファンコミュニティでもなく、ボランティアでもないDAOはメンバー1人ひとりが意思決定に関わることができます。さらにプロジェクトが上手くいけば、インセンティブとして受け取った暗号資産を売買し、経済的なメリットを享受することも可能です。また、デジタル作品は「所有履歴」が残されているため、二次流通されるごとにクリエイターに報酬が支払われるような設定もできる――。つまり二次流通されればされるほど、作品の価値とクリエイターの利益を守ることができることから、NFTはクリエイターを守るための仕組みが強力なクリエイターエコノミーだと言えるでしょう。
第2回では、NFTと同じくWeb3の重要な要素である「メタバース」について解説します。NFT=メタバースだと誤解されることもありますが、実はまったくの別物です。クリエイターにとって、メタバースはどのような可能性を秘めているのでしょうか。