エージェンティックコマース時代における「実店舗」の価値
──AIが消費者の代わりに商品を提案・購買する「エージェンティックコマース」の時代が来ると言われています。ホームセンター業態にはどのような影響があるでしょうか?
実は最近、私自身がそれに近い体験をしました。趣味のマラソンで足にマメができた際、AIに自分の練習記録や状況を伝えて相談したところ、「このモデルの幅広の靴が良い」と具体的な商品を提案されたのです。
園芸用品などの専門商材でも、「トマトの育て方」や「病気の対策」をAIに相談して商品を選ぶ消費者は既にいるはずです。我々小売業としては、AIが消費者へ提案する際に引用・参照する「情報源」として、自社が正しい情報を発信していくことが重要です。
──AIによる提案やオンラインでの購買が効率化される中で、お客様が「実店舗」に足を運ぶ理由は何になるとお考えですか?
やはり「フィジカル(身体的)な体験」です。先ほどの靴の例でも、AIに提案された後、最終的には自分の足に合うか確かめるために実店舗へ行きました。
ホームセンターで扱う木材や植物などは、同じ商品でも品質や形に個性があり、実際に見て選ぶ楽しさがあります。また、当社のグループ会社「遊舎工房」で扱う自作キーボードなども、打鍵感やタッチ感は触ってみないとわかりません。価格やスペックなど数値化できるものはオンラインで完結しますが、身体的な感覚や現物の確認が必要なものにおいては、実店舗の価値が今後ますます高まっていくはずです。

店内放送の生成にも挑戦。アイデアの源泉は「かけ合わせ」
──AIによって、小売業界のビジネスモデルや競争のルールはどう変わっていくとお考えですか?
ビジネスモデルそのものが劇的に変わるかはわかりませんが、「競争優位性の作り方」は確実に変わります。現在、商品自体で画期的な大ヒットを生み出すのは難しくなっていますが、AIやソフトウェアの領域は一番進歩が早く、伸びしろがあります。
規模の大小や資金力に関係なく、「AIをどう業務に活かすか」というアイデア勝負の側面が強くなっており、そこで競争のルールが変わる可能性は高いです。
──アイデア勝負という点で、御社ならではのユニークな取り組みはありますか?
最近、店舗のBGMの合間に流す店内放送「グッデイラジオ」をAIで制作しています。
たとえば殺虫剤の販促企画では、季節や販促テーマ、会話形式などを指定するだけで、AIが数分で店内放送用の台本を生成します。「いよいよ梅雨も本番」といった季節感を踏まえた表現も盛り込まれ、音声データまで作成できます。
デモとして生成したラジオ台本
司会:グッデイラジオの時間です。今日はこれからの季節に欠かせない殺虫剤に関しての情報を、良日出来太(よいひできた)店長に伺います。店長よろしくお願いします。
店長:はい、よろしくお願いします。皆様の毎日に良い日をお届けしたい、店長の良日出来太です。本日はご来店ありがとうございます。
※良日出来太店長は、グッデイキャラクターの名称
このようなラジオ形式の店内放送は昔からやりたかった企画なのですが、声優の手配やスタジオ収録のコストを考えると現実的ではありませんでした。しかしAIを使えば、コストをかけずに数分で実現できます。こうした技術の組み合わせも、小売業ならではのAI活用のアイデアです。
──最後に、AI活用に悩む小売・コマース業界の同業者に向けて、明日から始めるべきことのアドバイスをお願いします。
まずは、「AIで何ができるのか」を実際に触って知ること。そして「自社が今どんな課題を抱えているのか」を深く理解することです。
この2つを掛け合わせることで、初めて有効なアイデアが生まれます。日々の業務課題をAIの力でどう解決できるか、ぜひその視点を持って、恐れずに新しいテクノロジーに触れてみてください。
