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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Autumn

石谷聡史と考える統合マーケティング・コミュニケーションの未来

「創造的なことには、リスクがあって当然」 ─ 原野守弘氏


東京を、世界の才能が集まる都市に

 ―― 原野さんは海外の広告賞を多く受賞されたり、審査員を務められたりと海外からの刺激も多く受けられていると思います。日本の環境とは何か違いがありますか?

 そうですね、欧米は業界以前に文化としてリスクを押してチャレンジする姿勢がベースになっているので、広告でもそれが当然というところはありますね。思い切ってそぎ落として一点突破するような、強いアイデアが目立ちます。イギリスやオランダ、ドイツ、最近だとスウェーデンも注目です。

 日本も本質的には、例えば生け花や建築など、シンプルを極めた“Less is More”な表現が得意なはずなんですが、組織における意思決定の段になると途端に詰め込み方式になり、肉も魚も盛り込んだ幕の内弁当のようなアウトプットになってしまう。

 以前、デーブ・スペクターさんがテレビ番組で「日本を一文字で表すと『詰』」と挙げていて、確かにと思ったんですが、お弁当以外にもコンビニの棚やワイドショーだって盛りだくさんですよね。決してそれが悪いと言っているわけではなく、そういう文化なんです。

 だからこそ、詰め込むことが本当に正直なことなのか、その都度問いかける必要がある。この読めないほど小さい字の注釈は、本当に入れるべきなのか、とかね。

 ―― ご自身の会社を立ち上げられたことを機に、さらに取り組みたいことや進行中のことなどありますか?

 今の仕事は、純粋な広告企画が約4割、3割がインターフェースやプロダクトのデザイン、3割がコンセプト立案やサービス開発からかかわるようなもので、意外と自分が考えていることの割合に近くなっています。

 ひとつ試み中なのは、海外からインターン生を迎えているんですよ。3人の会社に、インドとコロンビアとスペインから日本語の分からない若者が3人加わった(笑)。3カ月単位なので住むところの世話も難しくて、そんなノウハウも蓄積中です。僕自身が海外での経験に育てられたので、逆に東京で何かやりたい人がいたらサポートできればと。

 実は、2011年に手がけたNTTドコモのWebCM「森の木琴」の達成感が大きすぎて、賞を獲りたいとか有名クリエイターになりたいといった枝葉の野心みたいなものがすとんと落ちて、すごくフラットな気持ちになったんです。それが、今後は少し人のためになることをしたいと思った発端になっています。

 海外インターンを入れたもうひとつの理由は、小さな案件も受けられるから、例えば地域の中小企業の製品や伝統工芸品にもスポットを当てられるなと。今、日本特有の文化や製品を海外に送り出そうとする動きがありますが、僕は日本人の視点よりも、外国人の視点で推すところを見出すほうが的確なんじゃないかと思っているんです。

 例えば今、ロンドンの洒落たホテルに泊まると南部鉄瓶で紅茶が出てくるんですよ。いろんなホテルで、しかもどれも白く塗られているんです。

 ―― それは新しい。日本人にはない発想です。

 そうでしょう? だから、うまくいくかはインターンの試み次第ですが(笑)、日本の田舎の商品を海外仕様に“翻訳”して、ニューヨークやパリのセレクトショップに売り込んだりしてみたい。日本や東京が本当にクリエイティブの力で世界に打って出るなら、世界中の才能が東京を目指して集まるようにならないと。うちの会社の取り組みが、その出発点になったらいいなと思っています。

取材ノート

 原野さんと私の出会いは、約10年前のある食品会社の仕事でした。その頃私は、駆け出しのキャンペーンプランナー、原野さんは既にデジタルの世界では先頭を走っていらっしゃいました。その後ドリルの設立やPARTYの設立を通じて、広告業界の“出世魚”のようにクリエイティブ・ディレクションや事業開発などに、どんどん仕事の幅を広げていかれました。そんな原野さんがどのような考え方で今仕事に取り組まれているのか、とても興味がありました。

 お話をお聞きし特に心に残ったことは、「商品・サービスの本質的な課題から逃げない」という考え方、そして解決のための「具体的な絵を作り込む」というアプローチです。クライアントから課題の相談があったとき、そもそももっとこうした方がいいのに、と思うことが少なからずあると思います。自分に与えられた仕事の領域でできることを考えるのではなく、その商品・サービスの本質的な課題に食い込んでいくこと。その少しの努力や行動力がマーケティング・コミュニケーションの統合につながり、またクライアント企業やチームスタッフからの信頼につながるのではないかと感じました。

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この記事の著者

石谷 聡史(イシガイ サトシ)

株式会社電通 プラットフォーム・ビジネス局 コミュニケーション・プランナー

さまざまな企業の統合マーケティング戦略のコンサルティング・プランニング業務を行なう一方、コンタクトポイント・クロスメディア・PDCAなどマーケティング・コンバージェンスに関連する新しい手法開発にも従事。『クロスイッチ-電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)やクロスイッチを元にした英語書籍『The Dentsu Way』(McGraw-Hill)を中心となって企画・執筆。中国・韓国・タイでも翻訳本が出版される。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2014/10/29 14:11 https://markezine.jp/article/detail/17856

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