コラム:オープンソースで利用できるRobyn
ここからは、小川氏によるコラムをお届けします。
RobynはMeta社が開発しオープンソースとして公開している高機能なMMMツールです。MMMで解決できる課題は、当該企業またはブランド全体のマーケティング投資最適による効果向上です。確かな分析結果を最短で導く分析基盤が求められます。
Robynは確かさとスピードの両方を担保する機能があり、かつ無料です。そのため、チャネルごとの予算配分最適化による効果の最大化や、効果を維持してコストを最小化するなどの恩恵を受けることができます。

テレビCMとインターネット運用型広告(以下、運用型広告)の予算配分最適を例に、私の知見をもとに解説します。

運用型広告では、各プラットフォームや自社の環境から得られるログから、コンバージョンにつながったと考えられるクリックやインプレッションによって効果を推計しています。
運用型広告とテレビCMを比較するとリーチの減衰は早い段階で訪れます。入札制であるため、出稿量の増加に応じてクリックなどの単価が増加することによる効果の減衰も確認できます。一定の投下量までは指数関数的に効果が増大し、ある段階から減衰するS字カーブがあてはまる場合もあります。
これら、非線形な影響を考慮したチャネルごとのレスポンスカーブの把握が必要です。Robynでは、各チャネルにおけるレスポンスカーブがアウトプットされ、効果の減衰や投資対効果が最大になる投下量を把握することが可能です。さらにこれらの効果量から最適な予算配分プランを算出するため、迅速にメディアプランニングに反映させることが可能です。また、各チャネルにおける残存効果(Adstock)を考慮したモデルが生成されます。

RobynはFacebookのAIライブラリ「Nevergrad」による進化的アルゴリズムでAdStockと非線形な影響の適切なパラメーターを探索する計算を短時間で何千回も繰り返してモデルを進化させます。計算回数などは分析時に指定できますが、GitHubで公開されているデモ用のスクリプトでは2,000回がデフォルトとして紹介されています。
MMMで用いられることが多い回帰分析は、相関が強い説明変数を複数入れると推定結果の信頼度が下がる多重共線性というエラーを考慮する必要がありますが、Robynはリッジ回帰という手法を用いてそのエラーを回避します。また過去データに極端にあてはめることで新しいデータの説明(または予測)精度を下げてしまうオーバーフィッティングを回避する処理も行います。
Robynでは、非常に高度なモデリングを短時間で行うことができます。特にテレビCMを出稿している企業は、テレビCMによる運用型広告のアシスト効果を意識することが有用です。
テレビCMの投下後に調査を行い、好意度や利用意向のリフト(ブランドリフト)を確認するときに、運用型広告のコンバージョン率の向上などのアシスト効果も把握することができます。私はネット行動のプレファレンス「M」の値を使って好意度や利用意向の違いによるコンバージョン率の違いを推定することで、ブランドリフトによる運用型広告の効率UPを金額換算しています。「M」は『確率思考の戦略論』(森岡毅、今西聖貴、角川書店)で紹介されたNBDモデルの数式における係数の1つで消費者1人当たり、一定期間で購買などのアクションをする回数の期待値です。
テレビCMの放映時間とWebサイトへの来訪時間を紐付けることで直接的な効果を確認する方法もあります。テレビCMのように他の施策をアシストする効果が確認できているチャネルにおいては、アシスト効果も把握して評価することが重要です。各チャネルにおけるAdStock(残存効果)をモデルに取り入れることが必須要件です。
私のYouTube「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)Robyn解説 Ver3.6.4」では、Robynの使い方を解説しています。