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デザインで行政を良くしたい JAPAN+Dコアメンバー/経産省・平山さんの奮闘から探る、企業とデザインの関係

言葉と数字では伝わらないのがデザイン でもだからこそ「差がつく」

――JAPAN+Dを立ち上げてから最初に行ったことは何ですか?

「デザインとは何か」「それを行政にどのように取り入れていくか」というJAPAN+Dの核を発信できるウェブサイトづくりです。

仕事とは、ずっとPCの前にいて笑わず真面目にしなければいけないものではありません。私たち国家公務員にも「個人」があります。当然つらい仕事もあるけれど、楽しく、喜んでもらえる仕事がたくさんしたい。そんな気持ちが伝わるよう、省庁のページでありながらも音楽をつけたりカラフルにしたり、ワクワクしてもらえる楽しいサイトを目指しました。KESIKIさんと制作したYouTubeの研修コンテンツは、さまざまな省庁が研修で使ってくれていると聞いています。省庁でもデザインアプローチに関心を持っていただけていることがわかり、とても嬉しかったですね。

ですがこういった取り組みを行ったとき課題に挙がるのは、「デザイン導入の効果をどうはかるか」です。JAPAN+Dとして「デザインはこれまでの軸で数値的に評価できるものではない」と結論づけたものの、評価したい気持ちももちろん理解できます。

デザインアプローチを導入した政策の一例として、特許を申請した際、様式が少し異なっていたり、ちょっとした間違いがあったりしたときに届く「拒絶理由通知書」という紙があります。「書きかたが間違っていたから直してほしい」旨を伝えるだけのものなのですが、「拒絶理由通知書」という名前を聞くと気持ちが落ち込んでしまいますよね。そこで特許庁デザイン経営プロジェクトメンバーが、「ここを直せば申請が通りますよ」「なにかあったらここに相談してくださいね」といった情報をまとめたお助けサイトを制作しました。

出典:特許庁
出典:特許庁

ですが、デザインの考えかたを認識していない方がこの取り組みに触れたときに気になるのは、「それによって、件数が減ってきている特許申請をどれくらい増やすことができたのか?」ということだったりします。

もちろん、このようなサイトを作ったからと言ってすぐに特許申請数が増えるわけではありません。デザインは、マインドをより良くすること。この例で言えば、その通知が届いた人が「もう面倒くさいしよくわからないからいいや」となってしまうところから、「それならもう一回やってみよう」と気持ちへ変えるための取り組みです。そのためなにかKPIを設けて測ってほしいと言われると、アンケートで「これを見てどうでしたか?」と聞くなど定性的にしか評価できません。

ただ一方で、評価の指標がないわけではありません。従業員側の視点からみると、こういったプロジェクトを経験した人とそうでない人には、態度やマインドで変化が生まれると思っています。

たとえば2022年にいくつかの課室のプロジェクトにJAPAN+Dとして伴走したのですが、プロジェクトの前後で「今の仕事に満足していますか?」「終わった後、どうでしたか?」などの問いを投げかけると、「自分の仕事の本質がわかった」「改めて自分を問い直すきっかけになった」などの声が挙がりました。デザインは「マインドの変化」なんですよね。

本当は数字で測って説明をして、デザインが素敵なものであることを伝えたいのですが、言葉と数字では伝わらないのがデザイン。ですがだからこそ、差がつくものだとも思います。たとえば、自身でさまざまな工夫をして一生懸命受験勉強をした人と、なんとなく受験勉強をした人では圧倒的な差がありますよね。とりあえず取り組んだ人が、必死に頑張った人にすぐに追いつけるはずがない。頑張りにかけた時間や姿勢、工夫が違うからです。

私は、企業経営にも同じことが言えると思っています。「みんなで考えても時間の無駄だから、そんな暇あるなら営業行ってこい」と言う会社と、「誰のため、何のためにこの製品があるのかみんなで考え、それを統一させてからみんなで営業しよう」という会社があったなら、おそらく後者のほうが従業員、顧客ともに満足度は高いでしょう。ただ、結果的に後者の売上が伸びるかはわかりません。提案しに行った結果、「営業先の課題には他社の商品のほうが合うと思ったのでうちの商品は売りませんでした」とメンバーが言ったとき、前者は「なぜ売ってこなかったんだ」と問いつめられそうですよね。そういった姿勢のため最初は前者のほうが営業成績は良いかもしれませんが、「どちらの企業が好きですか?」と営業先のクライアントに聞いたときに名前が挙がるのは後者のはず。そう考えると、すぐに効果が出るものではなく、徐々に効果が広がっていき愛されるのがデザインであり、それが難しさとも楽しさだとも言えるのではないでしょうか。

デザインの取り組みはたしかに時間がかかりますが、しっかり対話を積み重ねてその課題を突き止められるからこそ、何度もやり直さなくてよいですし、結果的に生産性も上がるはず。それを体感してくれる人を増やしていきたいですね。

――デザインの力で事業や経営にインパクトを与えたいと考えている現場のデザイナーにできるアクションはあるでしょうか。最後にアドバイスをお聞かせください。

「とにかくデザイナーを増やしてほしい」のように、デザイナー目線の課題感を経営層に訴え続けるのは得策でないように思います。経営層に伝えたいのであれば、自分が社長だと仮定し、「どんな風に言われたら心に刺さるのか」を考えてコミュニケーションをとる必要があるでしょう。

経営層は投資をするときに、株主や顧客へその理由を説明しなければなりません。「デザイナーが、人が欲しいと言っているからデザイナーを増やします」と伝えても、誰も納得できませんよね。だからこそ、経営層が外部にきちんと説明できるための武器を渡す必要があるのです。

行政もそうですが経営層も「なぜそれを行ったのか」「そういったプロセスを経た理由は何なのか」と対外的な説明を求められるシーンがとにかくたくさんあります。みなさんが所属する部署に置き換えてみても、上司が説明する資料を部下が作ることもあると思いますが、武器になるような説明しやすい資料を用意せず丸腰で立ち向かわせてしまってはこちらの力不足が露呈するだけです。デザインへの投資を促したりインパクトを与えたりする点に課題を感じているなら、デザイナーが、経営層の武器になるところまでデザインの力を発揮すると、経営層のデザインに対する信頼も高まるのではないでしょうか。

――平山さん、ありがとうございました!

この記事の続きは、「CreatorZine」に掲載しています。 こちらよりご覧ください。

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2024/01/16 08:15 https://markezine.jp/article/detail/44543

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