Z世代とも異なる、α世代ならではの購買プロセス
──定義上では2025年に中学3年生以下の年代となるα世代。まだお小遣い程度しか自由に使えるお金を持っておらず、決して消費力が高いとは言えません。マーケティングにおいて、今からα世代の動向を掴んでおくことは必要なのでしょうか?
「α世代なんてまだまだ先」とみなさん思われるでしょう。しかし、本格的に動き出すのはもう来年、2026年と思っていたほうがよいです。来年、中学3年生が高校1年生になり、一部アルバイトを始める生徒もいます。消費力を持つようになるのはもちろん、社会生活の中で存在が「見えてくる」ようになり、急に世間が注目し始めるはずです。動向は掴んでおく必要があるでしょう。
Z世代についても、潮目が変わったのは2019年。ちょうどZ世代が成人するタイミングでした。それまで「将来の消費者」として漠然と考えられていたZ世代が、購買力を持った消費者となり、会社に後輩として入ってきたり、クライアントの担当者になったりする中で、急に顕在化したのでしょう。
ちなみに、私は長年若者研究をしていたのですが、2019年以前は本当に世間や企業からの関心が低かったんですよ。Z世代に対する注目度が一気に上がったときは、その急上昇ぶりに驚きました。恐らくα世代においても、2025〜2026年に同じような現象が起きるのではないかと考えています。
──もう目の前まで迫ってきているα世代ですが、マーケティングではどのような方法が効果的だと考えられますか?
先生はSNS時代の購買モデルとして、「EIEEB(イーブ)」モデルを提唱されていますよね。
はい。100年前にできた「AIDMA」に代わる現代の購買モデルを作ろうと、大学のゼミ生と一緒に考えたのが「EIEEB」です。なんとなくスマホを眺めていたら偶然、興味のある情報に出会い(Encounter)、ひとまずスマホ内に保存しておいて自分ごと化し(Inspire)、時間をおいてから自分に合っているかをUGCのレビューなどで調べ(Encourage)、ときめきを感じる場所で購入(Event)に至る。その後「みんなもやってみて!」と投稿し、ときめきを誰かに伝えて高め合う(Boost Up)という一連の流れを捉えたモデルです。
Z世代やミレニアル世代などで検証した結果、現代の購買モデルとして当てはまっていた「EIEEB」ですが、α世代には当てはまらないでしょう。
──α世代の場合、どのように変化すると考えられますか?
α世代は、ここまで長いプロセスを踏まないのではないでしょうか。現在研究段階ですが、そもそもAIによってある程度スクリーニングされた情報に出会うのかもしれませんし、自分に合っているか調べるためにAIをエージェントとして使うのかもしれません。いずれにしても、もっと早く「最適解」を見つけ、購入に至るでしょう。
加えて、α世代は消費行動において「心地のよい場所」を探す傾向が強まると考えます。ネット上でのコミュニティを指す「界隈」という言葉が流行語になっていたのは記憶に新しいですよね。いつでもどこでもモノが買える時代だからこそ、「ここで買えばもっと楽しい」「ここなら趣味の合う人がいる」といった場所(コミュニティ)の付加価値が必要になってくると考えます。
──界隈でのつながりは、従来のコミュニティマーケティングやファンマーケティングとは異なるものなのでしょうか?
はい。Z世代もα世代もできるだけストレスを感じない、ゆるいつながりを望むため、仲間同士の人間関係に気を遣わなければならないようなファンコミュニティは苦手です。できれば登録不要で、都合のいいときに行ける心地よい場所を好みますね。
また、「価値観」「思想」「スタイル」など、押しつけや決めつけを感じるようなグループで括られることも嫌います。たとえばファッションやメイクのスタイルにしても、α世代は今日の気分や一緒に遊ぶ友達によって変わるため、「あなたは○○系ファッション」と括られることに違和感があるようです。それよりも、その日の「バイブス」「テンション」などによって「世界観」が共感できる仲間と、ほどほどに、ゆるくつながることを望みます。「自分」ではなく「自分の世界観」を見てほしい、世界観が合う人とつながりたい、合わない人と無駄な軋轢を生みたくない、といった考え方です。