企業に不可欠なソーシャルメディアマーケティング
生活者にとって、今やTwitterやFacebookはごく一般的なコミュニケーションツールになっている。高度なテキストマイニング技術を活用し、企業のマーケティング活動を支援するプラスアルファ・コンサルティングの鈴村賢治氏は、「例えば世界の都市におけるツイート数を比較すると、1位はジャカルタ、2位は東京、3位はロンドン。たくさんのつぶやきの中から企業や商品に関するコメントを把握しマーケティングに活かしていくことは、企業にとって、もはや不可欠になっている」と話す。
事実、競合他社の状況などを鑑みてソーシャルメディアを活用すべきと、企業やブランドの公式アカウントを取得し、情報発信をしている企業は増えている。ただ、一歩進んで対話をするとなると、炎上などを恐れて積極的になれず、一方向的なコミュニケーションに陥りやすく、本当に効果的な運用ができているケースは多くないという。
「ソーシャルメディアは生活者の本音を知ることができるメディアであり、同時に企業が生活者と直接コミュニケーションを取れるメディアでもある。本音を知るには『ソーシャルリスニング』、コミュニケーションを図るにはさらに『ソーシャルCRM』の実現がそれぞれカギになる」(鈴村氏)
いずれの場合も、扱うのがクリック数のように数値で簡単に判断できないつぶやきという言語情報、非構造化データである点がポイントといえる。
つぶやきの量と質を徹底して可視化する「見える化エンジン」
そこで鈴村氏は、つぶやきの見える化が重要だと指摘する。まず、ソーシャルメディアマーケティングの前提になるソーシャルリスニングに着目しよう。TwitterやFacebookなどの普及によって、いまやかつてないほどの膨大なつぶやきがネット上に生まれている。特にTwitterはリアルタイムの市場の反響を得られるため、即時に把握できれば非常に有益な情報になる。しかしその一方で、それらのすべてを人の手で即時に分析できない、という点が大きな課題になっている。
その課題に対し、プラスアルファ・コンサルティングでは生活者の声の見える化策として、テキストマイニングサービス「見える化エンジン」を提供している。大手メーカーや小売業、通信やサービス、さらに広告会社に至ってはすべての主要代理店に導入されており、すでに600社以上が活用しているサービスだ。キーワードを入力すると、Twitterやブログサイトなど幅広い範囲からそれに関するつぶやきを自動で収集し、集計を行う。
例えばある化粧品について、Twitter上でどんなつぶやきがあるのかを分析すると、分析結果画面には「しっとりする」「使いやすい」などポジティブなワードは赤で、「ヒリヒリする」などネガティブなワードは青で示され、投稿件数が多いワードほど大きく表示される。そのため、視覚的に評判を把握することが可能なのだ。
本来のマーケターの仕事は行間を読み、その背景を考えること
それと同時に、気になる投稿は具体的にどう言われているのかを見ることができ、投稿者の感情をアバターで表現することで画面で視覚的に把握できるようになっている。
ただし、「気になるものはなるべく読んだほうがいい」と鈴村氏は語る。
「人間の脳は行間を読むので、そこから背景を考えることに力を割くことが本来のマーケターの仕事だと考えている。とはいえ何千、何万も閲覧するのは不可能なので、読むべき声にたどり着きやすいシステム構築に注力している」
では、実際にネット上ではどのようなソーシャルリスニングが可能なのだろうか。例えば売れている炭酸飲料について調べるなら、この場合はポジティブなつぶやきを検出するので、「炭酸」and「おいしい」などで検索をかける。次に上位の銘柄を検出し、今度は「味」「飲みやすさ」「CM」などの切り口でつぶやきの質を分析する。そうすると、自社商品や競合商品が一体何について多く語られているのか、それは売上とどのように関係しているのか、などを把握することができる。
「競合商品がどう言われているかを、自社と同じように把握・分析できる点は、ソーシャルリスニングならではの利点であり、マーケティングにおいて画期的なこと」と鈴村氏は指摘する。
注目すべきは「つぶやき」x「テレビ番組の露出」のクロスメディア分析
ネット上のつぶやきに加えて、プラスアルファ・コンサルティングでは「見える化エンジン」にて、テレビ番組での露出もつぶさに検索し、把握できる。
これにより、マスコミ報道とネットのつぶやきの相関も把握できる。さらに自社コールセンターへの反響などを加味すれば、市場を多角的に捉えることが可能になる。また、つぶやきの量や売上との相関など、いくつかのデータを一つの画面に表示してオリジナルのダッシュボードを作成し、それを日々社内で共有すれば、容易に部門横断的な活用ができる。
このようなソーシャルリスニングを踏まえて、さらにこの時代にこそ実現できるのが、ソーシャルCRMだ。自社アカウントを用いて生活者と対話し、ロイヤルティを向上させたり、潜在顧客との接点を作り出したりすることで、CRMを実現することを意味している。
「自社アカウントで情報発信するだけでは、フォロワーへの一方的な伝達で終わってしまう。そこでフォロワー以外を含めたすべてのソーシャルメディアユーザーを対象に、自社に対して好意的なつぶやきをしている人や疑問を投げかけている人とコミュニケーションを図ることで、潜在顧客を能動的に増やすことができる。ソーシャルメディアCRMとはそうした企業の能動的な活動を指すものだ」と鈴村氏は強調する。
「カスタマーリングス」でソーシャルCRMを実践
とはいえ、前述したように生活者と対話するのは簡単ではない。具体的に同社では、どのように企業のソーシャルCRMをサポートしているのだろうか。
「ソーシャルCRMを実現するには、3つのステップがある。まずソーシャルリスニングを実施し、次に情報発信と関係構築を行う必要がある」と鈴村氏。この2ステップを経てソーシャルCRMが可能になる。
前段階の関係構築のステップでは、プラスアルファ・コンサルティングが提供するソーシャルCRMツール「カスタマーリングス」の伝播ネットワーク分析が役立つ。これはある話題について、Twitter上で誰が拡散しているのか、インフルエンサーやハブになっているユーザーを可視化したものだ。自社の発信した話題をよくRTしてくれ、それが広く伝播しているようなユーザーは、自社にとって積極的に関係を構築したい人だと言える。
では次に、どうすればいいのか。そうした人を中心に、「○○社の△△、買ってよかった」という投稿にはお礼やお得な情報を、「△△って□□機能あるのかな」といった疑問には適切に応答することで、顧客のロイヤルティを向上していくのだ。このようなTwitterを使った能動的な顧客サポートをアクティブサポートと呼ぶ。
「ただし、闇雲に話しかけては逆効果になってしまう場合もある。カスタマーリングス上では該当ユーザーの発言数やフォロワー数、前後の発言などを簡単に見られるようになっているので、例えば友達との会話に割り込んだりするのは避けるなど、個別の対応を効率的に行うことができる」(鈴村氏)
これからは“情報活用力”がマーケティング成果を左右する
先に述べたアクティブサポートを、先駆けて取り組んでいるニッセンやアスクル、ファンケルなどで「カスタマーリングス」は採用されている。TwitterだけでなくFacebookも同様に詳しく分析し、コンタクトを取ることができる。さらにメールマーケティング機能も充実しているので、自社の顧客や潜在顧客との一貫したコミュニケーションをスムーズに、かつ効果的に行うことが可能になる。
鈴村氏は、「ソーシャルメディアの登場でCRM戦略は変わった」と指摘する。従来は、まずターゲットを絞らない幅広いアプローチを経てメールアドレスや住所を取得し、会員リストを作成。そこから優良顧客化を図るのが定石だったが、ソーシャルCRMでは前述したように自社や商品に興味を持つ人、さらに商品カテゴリに興味を持つ人まで検出して接触することができる。つまり、ピンポイントでファンになってほしい人を見つけ出し、関係を築いていけるのが、ソーシャルCRMの大きな特徴なのだ。
また、ソーシャルCRMの段階でもソーシャルリスニングと同様に、オープンなプラットフォームで競争しているからこそ競合分析も容易だ。例えば競合企業と顧客とのやり取りを分析することで、自社の戦略を調整していくこともできる。
「これまでは情報収集力が成否に影響したが、今や情報は検索すれば誰でも手に入る。今後は情報を活用する力がマーケティング成果を左右する。情報活用力をつけるには、つぶやきという言語情報の適切な解析と、その膨大な量、つまりビッグデータへの対応が欠かせない。そのためにテキストマイニングは大きな武器になる」と鈴村氏は語り、今後のソーシャルメディアマーケティングに大きな示唆を与える講演を締めくくった。